Ep.4

 生まれ変わってもなお華奢きゃしゃな体の自分を見下ろすと俺は全裸だった。服の値段はいくらくらいなのだろうか。請求書せいきゅうしょだとか別途契約べっとけいやく書類しょるいが必要になるならそれも仕方がない。ゴールドをかせがなきゃ。


「ウサギ男を見つけるのは名誉めいよあたいするのかな。アリス」


 アリスはゴホンとせきをした。時計の中でも咳はできるのかな。


「貴様はいちいち私に文句があるようだな、咳は仕草のようなものだ。まあ良い。これも私がオーナーを得たことによる副産物ふくさんぶつだな。人の心の声を聞くのは悪くはない」


 ずっと時計の中で一人だったのか。


エニシはきしむ床を踏みめてまだみぬ異世界を見るために窓の方へ向かった。アリスがいるから一人ではない、それに今は強い心臓がある。暖炉だんろの煙ですすけた部屋に自分の血が四散しさんしている様子ようすをみてもふるえひとつ起きなかった。


「フン、気づかいなど無用むよう


「現在よわい二百を超えるウサギ男は裁判官さいばんかんだ。罪人から押収おうしゅうしたものを部屋に持ち込んでコレクションしているクセがあるくらいで悪行あくぎょうを働いているわけではない。私のいたスペードセブン王国は正義の国だ。セントラルのカジノの警備隊けいびたいも私の国から派遣はけんされているのだぞ」


 なるほどね。


「ウサギ男に聞きたいことは私の父の行く末ゆくすえについての一つのみ、そんなことは後回しにしたまえ」


「わかった自分で何かをさがすことから始めないといけないわけだ」


「その通りだ!で見てみみで聞いてはだで感じて、貴様きさまがこれがほまれだと思えばそれが名誉めいよだ」


 カーテンをめくってみた。ビルにはさまれた夜景やけいに照らされた路地ろじには雪が降っている。今いる場所はビルの三階ほどかそれ以上の高さがあるようだ。夜空はりしきるぎんの粉と夜景の電灯で何も見えない。


 光の強さに目がなれたせいか徐々じょじょ視界しかいがひらけていく。


 路地ろじの向かい側にあるビルは想像そうぞう以上に高い。だがそのビルにはかべという壁が存在していなかった。ビルの上の方までくまなく、全てがカウンター付きのクレープ屋のようにむき出しになっている。


「すげえ、中国の街みたい。絵師えしえがいた異世界のまちって感じだな」


 ショッピングモールの入り口のようにして様々な店が連なっている。雪の降り頻る中、表に面した露店ろてんのように営業している店が無数むすうつらなっている。真っ直ぐ先の店の間にある通路つうろの奥にはさらに商店街があるようだ。


 となりのビルもそのまた隣のビルも窓から確認かくにんできる街は全てベランダの代わりに店がはみ出している集合住宅しゅうごうじゅうたくのようになっていた。


 目を凝らすと店舗の入り口に沿ってスキー場のリフトのようなものがエレベーターのように設置されていて縦横無尽にうごめいている。


 片手で中吊りを掴んで片足をブランコのようなサドルに乗せるようだ。雪で見えなかったが一人乗りのリフトのワイヤーが電線のようにそこらじゅうに張り巡らされていた。


 おそらくこの街のどこに行くにしてもあれに足をひっかけて移動いどうするのだろう。現に何十人もが片足をリフトのサドルにはさんで移動して目の前を通り過ぎていく。


 手元にある中吊なかつりのボタンを押して店の前で止めている。


 バスの降車こうしゃボタン付きの電車の中吊りにぶら下がって移動するといったところだろうか。


 まるで鮮明せんめい悪夢あくむ異様いようなスノーボウルをのぞいているようだ。


 正面の店を確認かくにんした。看板かんばんは赤色と黄色とピンクのグラデーションになっている。変な文字だけど簡単かんたんに読める。


「ホットヌードル 5ドーラー あたたかいスープはいかが?」


 雪がふっていることなどおかまいなしで営業えいぎょうする店のカウンターでは、厚手あつでの毛皮を羽織はおった化粧けしょう老婆ろうばがけだるい表情でふんぞりかえっている。よく見るとカップめんにお湯を入れるだけの仕事のようだ。


 カウンターのうしろには無理むりやり暖炉だんろが取り付けられている。煙突えんとつは店の外側から強引ごういん設置せっちされているのがわかる。煙は別の換気扇かんきせんい込まれて上の階の換気扇へとつながっている。


「雪にれてもオッケー。知識ちしきをつけて強くなろう!ドンキフォート新聞しんぶん6ドーラー。ラジオなどの精密機械せいみつきかい五十回払ごじゅっかいばらいでオッケー!最新さいしんのニュースをいつでもあなたに ドンキフォート新聞社しんぶんしゃセントラル21-5号店」


 ラジオ…この世界には映像えいぞううつ機械きかいはまだないのかな。現状げんじょうを見るからにこの手術室はかべがあるから病院としての設備せつび一応いちおうととのっているってわけだ。


 現実世界はなつかしい。でもどうせだったらこの世界を冒険ぼうけんするのも悪くないな。


「アリス、まずは闘技場とうぎじょうを見に行く。回復能力かいふくのうりょくだけじゃ強い人に勝てない気がするけど」






 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る