第14話 悪魔の囁き
『いっそのこと、あなた一人で外へ出てしまうというのは如何ですか?』
「……え?」
『この屋敷の近くに森があります。そこへ行って魔獣を一狩りするのです。そして、その成果をあなたのお師匠に見せて認めてもらう。インパクトもあり、あなたの実力が一目で分かる一番いい方法だと思われます。いかがでしょうか』
すると、キリアは顔の前で手をぶんぶん横に振った。
「いやいやいやいやいやいやいやいや、いったい何を言い出してるのよ?!出るなって言われてるのに、なんで無断外出しなきゃならないのよ。おかしいでしょ、そんなの」
アイディアを出せと言ってきたくせに一考もせずに否定してくるとは、本当にポンコツな主人様だこと。予想していたとはいえ、その反応にため息でも返してやりたくなる。
だが、ワタシはそれを押し留めると指摘だけしていった。
『おかしいことなどありません。力を示して、お師匠に認めてもらうのでしょう?』
「ええ……その通りよ」
『守られるだけのお荷物ではなく、迫る危険に対処し得る力がある事を証明する』
「できればそれが理想……だけど」
『ならば、魔物を狩れば一発で解決します』
「いや、だから外に出るわけにはいかないって。それに魔物に太刀打ち出来るわけーーー」
『では、あなたには妙案があるのですか?それ以外にどんな方法がおありになると言うのでしょう。まさか、私がお師匠と戦えなどと提案してくるとは思っていませんでしたよね?』
「……ぅ、それはないけど……でも……」
まったく。強気に出たと思ったらこの体たらく。ほとほと呆れてしまいますね。他者にきっかけを与えてもらおうなんて
しかし。
だからこそ、扱いやすい。
『安心してください。全て丸く治るように私がサポートしますから。【コマンド】を展開して各種スロットを確認してみて下さい』
煮え切らない様子でキリアは【コマンド】を展開し、言われた通りに《ブラスター》、《ガード》、《フィジカル》、《ストレージ》のスロットを開いていく。
「新しい項目ができてる」
《ブラスター》
・【ショット】
・【ワイド】
《ガード》
・【フロントウォール】
《フィジカル》
・【インビジブル】
・【テクスチャー・アイ】
・【アジリティー】
《ストレージ》
・【フェイクテクスチャー01】
『これらは、今のあなたのステータスに合わせて扱えるように調整した魔法です。バックボーンにはスキルを噛ませているので、体力のないあなたでもある程度は息切れせずに使うことができるようになっています』
これらの魔法を駆使すれば、イレギュラーな相手が出てこない限り、大抵の魔物は難なく仕留めることが出来るだろう。
「でもこれって結局、ナビィが用意した魔法を使ってるし、私の実力じゃない気が」
御膳立てをしてやったと言うのにこいつはまだうだうだごねるのか。
手間の掛かる。
しかし、【コマンド】を使うことは自身の実力ではないというような発言を自分もしてしまっていたのを思い出す。
「悪いけど、やっぱり他の方法をーーー」
『いいえ、待って下さい』
ワタシはキリアの言葉を遮り、彼女の頭に砂糖をまぶし始めていく。
『この際です。考え方を変えてみてはいかがでしょうか?』
「なにそれ、どういうことよ」
『そもそも。もう既に私とあなたは一心同体なのですから、別々に考えるような事はしなくてもいいのではないでしょうか。そうすると、私という存在そのものがあなたの力の一部であると言えます。するとどうでしょうか。私があなたの為に用意した魔法はズルではない、とそう思えてきませんか?今のあなたには“
「……じゃあ、もしそれで外に行くとしたらどうやって出るつもり?師匠には絶対にバレてしまうわ」
すると、キリアは口元に手を当てて悩みながら聞いてきた。
ワタシはそれに即答する。
『それこそ《インビジブル》の出番です。気配を消し、外に繰り出します』
「でも、私の気配を師匠が追っていたらどうするの?いきなり消えればそれこそ師匠は気づくと思うのだけど」
そういうところには頭が回るのですね。実に面倒臭い。
『お師匠が眠りに着いた時を見計らって出ればいいだけのことです。そういう場合、大抵は外敵からの気配には気付きますが、身内の動きというのは察知しにくくなるものです』
「…………」
『そして、目が覚める前に魔物を倒してその証拠を持ち帰ってきましょう。そうすれば認めてくださるでしょう』
「……ん〜〜…………」
もう流石に反論できないのか、否定してこない。
そうしてワタシは『では』と声のトーンを変えてそれを口にした。
『明日、お師匠の様子を窺って、行けると判断したタイミングで外へ出ましょう。先ほど解放した魔法についての説明はその時に追々説明していきます。実際に使いながらの方があなたも分かりやすいでしょうからね』
「……分かったわ。頼んだわよ」
『はい、もちろんです。それではもう今日は休息を取りましょう』
「そうね。じゃあ、おやすみなさい」
『おやすみなさい』
キリアは部屋の明かりを消すとベッドに横になり、数分の後に眠りへと落ちていった。
ようやくか、とワタシはため息を吐いた。そうしてしばらくしてから今までに開発した魔法術式やスキルを表示し、他にも現段階で使えるものはないか精査していく。
『ああ。これらをもし全て使用可能になれば……』
ワタシは千を超える項目を流し見てボヤいた。
おそらくそれが現実になるのはまだ当分先のことだ。体の成長を待つ他ない。
そうなると今できることは、この身体を常に最適な状態に保つことである。
その為にはとにかく実際に魔法を使った実戦的なデータが欲しかった。それを元にスキルなどに更なる調整を加える必要がある。
決して調整の不備や余念があってはならない。
ーーーいつか自分が使うその時のために。
体の宿主が眠る中、ワタシは作業を黙々としていくのだった。
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