七話

「あーあ、何やってんだか、」


死にかけの結弦を、一対の瞳が呆れたように眺めていた。

戦いからそこまで離れていない電柱。その電線が幾つも重なっている場所に、一人分の影が胡座あぐらをかいて座っていた。

その影は、結弦を昔から見守ってきた者だった。

黄色味がかった三角の耳がひょこりと動く。空色の羽織は無紋、濃紺の袴は裾に金糸で刺繍が施されていた。背には矢筒と弓とを背負っている。

ゆぅらり、扇のように広がった尻尾は、九本。

かの有名な妖、九尾だ。

伝説の通り、凄まじい美形……ではあるが男だった。

残念美女ではない、美丈夫だ。

そんな美丈夫九尾は結弦を見て、随分と機嫌が悪そうな顔をしていた。

彩椿さつばきの奴め、脈々と面倒な性格ばかりを遺伝させおって。」

呪布を巻き、数珠を握り締め。瀕死にも関わらず拳を構える姿は、九尾の心中で四百年前の主人に重なっていた。

チッという舌打ちを堪えきれない。何年経とうと、馬鹿と無鉄砲の血脈は受け継がれているようだ。九尾はため息を吐きながら結弦を見守った。

最悪、腕でももがれてから助ければ良い。

しかし、ふと異臭が彼の鼻についた。耳鳴りのような不協和音も鬱陶しい。

下を見やれば、続々と黒霊どもが集まって来ていた。

結弦が相手をしているのと同じ、犬型。馬鹿でかいカラスに、ヒョロ長い猫型。

計五、六匹といったところか。弱いものほどよく群れる。

「___チッ、雑魚めが」

九尾は素早く膝立ちになると弓を構え、一息に三本の矢をつがえた。

狙うはうざったらしい犬型を全部だ。

キリキリと耳元まで弦を引きしぼり、


ずぅぅ______ぱぁ、っん。


風を切って飛ぶ矢を、彼は三本全て目で追う。そして黒霊に刺さった瞬間。

と言った。

ぱぁんっと黒い影が霧散する。いやぁ、なんとも爽快だ。

仲間が消えたことに気づいたらしい、カラス型と猫型もこちらに狙いをつけてきた。ニヤリと九尾は笑った。

やはり知能が低い。自分より上位の存在が、わかっていないなんて。


キリキリと矢を引きしぼる。次の矢は四本だ。

一気にトドメを刺してくれよう。

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