五話

一仕事終えて、近場のファミレスにて。

学生が頼むには少々高価なデラックスチョコレートパフェを前にし、俺は舌鼓を打っていた。

背の高いグラスに盛られているのはバニラとチョコの二種アイス。追加でメロンソーダを頼み、バニラの方を入れればメロンクリームソーダ。

上底あげぞこのコーンフレークはチョコソースが染みてしっとり、てっぺんにキラキラする巻きキャンディーはパキパキ。

俺は、窓際の席でアイスを切り崩し、土台のバニラアイスをソーダに叩き込んで、じつに優雅に過ごしていた。


最っっ高の放課後だ。

メロンソーダのストローを咥える。うん、美味しい!


「やぁ、さっきはどうも。」


突然現れたその人物に、俺は吹き出しそうになった。

そこに突然現れたのはさっきの依頼人………ではなく、依頼人と一緒にいた、たぬき耳さんである。

「あー、どうも。先ほどの……付き添いの方ですね。」

パタパタしてる耳は見て見ぬ振りだ。さっきはしくじったがもう大丈夫。

「そうそう、化けたぬきの絹田悠人きぬたゆうとでーす。ぴちぴちの大学生やってまーす。」

俺はスプーンを取り落とすところだった。

危ない、アイスが飛んでしまう。

まさかカミングアウトしてくるなんて思わなかったせいで、ひどく動揺してしまった。ダメだ落ち着け、押されるのは良くない。相手のペースに巻き込まれると詰みだ。

「っ!…ぴちぴちは…もう古いと、思います。……はい。」

「あ、そう?」

タヌ耳__絹田さんは俺の前に座ると、自然な仕草でウェイトレスにコーヒーを頼んだ。

俺も、自然な仕草で数珠を手繰り寄せさせてもらう。

だがそんな動作が自然にできる訳がない。その動きに気づいたのか、絹田さんはニヤッとイタズラっぽく笑った。

「あぁ、身構えなくていいよ。取って食おうなんてしないさ。しよう。」

「………助かります。」

その言葉で俺は、ようやく安心できた。

一般的な妖は、自分から約束した限りその約束を破らない。ここは日本、八百万やおよろずの神の国。妖だろうと約束を破るものにはばちが当たる。

「君に会いに来たのはー、厄介なヤツを自分になすりつけてたから」

「っ……!」

まさか気づかれて……いるか。そうですよね。あなたも視えますもんね。

俺が請負うけおったのは銀色の糸である。依頼人に絡んでいたのをほどいて自分に掛け直した。

「過度な自己犠牲はいけませんよー、って。お兄さんの忠告、ね?」

「大丈夫ですよ、ちょっと首絞められるだけだから。」

「うーん、清々しいほど大丈夫じゃないねー」

首に巻きつくこの糸は、妖の一部である。絡新婦ジョロウグモという奴で、徐々に徐々に首を絞めて人を殺す妖だ。そして残念、俺が相手にできない女性レディである。

まぁ、やられっぱなしではないのだが。

「依頼は出したので多分……」

突如、メラリと首のところで炎が上がった。相変わらず派手な人だ。

火の粉が舞い、楽しそうな声と断末魔のような悲鳴があがり。

そして、消えた。

特にウェイトレス等から視線もないので、悲鳴が聞こえる人間には限りがあったようだ。

キリキリと首を絞めていた感覚も消えた。よし、祓われたな。

俺は、目を丸くしている絹田さんに苦笑して見せた。

「ちょっと熱いんですよね、これ。」

「怖いわ!何がって、動じない君が一番怖いわ‼︎」

そんなの仕方がないじゃないか。

俺は溶けかけたパフェをスプーンでつついた。

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