二話

その電話がかかってきたのは、高校からの帰り道だった。

俺は言われたことをまとめ、復唱する。

「わかりました。一般人のお祓い、ですね。」


『そう、お祓い。多分一橋いつはし君なら簡単だと思うからね。』

電話の相手は、俺が初めて怪異を視えるようになった___とある怪異の暴走に巻き込まれた___時の恩人だ。

フリーの祓い屋たち、その元締めをしている初老の男性である。

『今は見崎みさき君出払ってるし、聖戸ひじりと君も空いてなくってね、近場だと一橋君しかいないんだ。ごめん。学業帰りだと思うんだけど………』

申し訳なさそうな声に、今日の予定を考える。

短縮五時間授業、部活は入ってないから無し。課題も特に無いし……。

「大丈夫です。空いてますよ、俺。」

電話の向こう、相手はは安堵のため息をついた。

『そう言ってくれて本当に助かるよ。ちょっと、心配な子だからね。』

その言葉に、俺は「んー?」と首を傾げた。

「え、何があったんですか。」

『……実はね。』


◇◇◇


「最近、体調があまりにも優れなくて。」


それだけいてたらそうでしょうね!

通っている高校から、少し離れた喫茶店。

依頼人と向き合っていた俺は、どうにかその叫びを飲み込んだ。

なるほど、あの人が言っていた意味がわかった。

これは心配になる。ものすっっっっっごく、心配になってしまう。


俺が普段するお祓いは軽いものだ。ペースも月一か、二、三回くらい。

悪霊に霊障、呪いのたぐいを祓い落とす仕事で、俺ができる範囲での活動だ。

視えるようにはなった訳だが、現役高校生という身分は変わらない。祓い屋を目指しているのでは無く、別に将来の夢もある。

俺が依頼を請け負うのは、ファミレスで好きなパフェを食べる分くらいは稼げるからだ。


それで、今日のお仕事は。と、軽い気持ちで伊達眼鏡をずらした、訳なんだが………。

思わず額に手を当ててしまう。

黒い影に霞。ぎょろぎょろと動く、多量の目の化け物。絡みついてるアレは………あぁ、単なる太さのおかしい蜘蛛の糸か。

まずいな、俺までおかしくなってきた。

こんなに憑きまくっている人は、あまり見たことが無い。

「あ、あの。」

落ち着け、相手を不安にさせてどうする

「あ、ごめんなさい。」

俺はニコッと明るく笑っておいた。

依頼人もぎこちなく微笑みを返してくれる。社会人、いや、大学生か。気弱そうな気苦労の多そうな、そんな男性だった。

霊障にやられているのだろうか。押しつぶされたような猫背、へなりと下げたられた眉。

付き添いだという人は明るい感じで、背筋のシャッキリ伸びた体育会系だ。余計に、依頼人の疲れた様子が目立つ。

「まー、背筋伸ばせって、な?清水。」

パンッと付き添いが背中を叩くと、霊障がわずかだが薄くなった。

………ん?

俺の頭は右方向に傾いた。

今、霊障が減らなかったか?

おかしくないか??

そう思って俺はさりげなく視線をずらした。

よく見るとこの付き添い、なるべく悪いモノを払い落とそうとしていた。


そして、頭に茶色い耳が生えていた。

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