第34話 試験

 エレベーターに乗り着いた先は地下。

 廊下を少し歩き大きな両開きのドアを開けると前面がガラス張りの部屋に出た。

 そこから見えるのは体育館ほどの空間。

 かなり広いコンクリートの空間は、壁や床の塗装も無く非常に無骨な印象を受けた。

 今現在一行が立っている場所は二階ほどの高さに当たるだろう。全体を見下ろすことが出来る。


「ここは?」

「地下戦闘施設です。地上のビル内にも戦闘可能な部屋はありますが、基本的には訓練用ですので」

「ここなら全力での模擬戦などが許可されているでござる」

「サムライさんのような一部の方には許可されてませんけどね。そして、試験にも使われます」

「私とどなたかがここで模擬戦するってことですか?」

「その通りです。ただ、相手は人じゃありません」


 その言葉にバンダが少しだけ苦い顔をした。


「選んでもらうのですが、犬二匹を相手にするかスケルトンを相手にするかの二択です」


 やはり野生生物が相手になるか。

 ニコは戦闘訓練をそれなりに行ってきたとは言えども当然ながらそれは全て対人でのものだ。

 野生生物を相手にした場合の戦闘訓練は行っていない。

 負ける事は無いだろうが、泥仕合になる可能性は十分にあり得る。


「スケルトン?」

「スケルトンは厳しいだろ」

「どういったものか知りません」

「では私が説明しますね!」


 スケルトンは魔獣の一種である。

 放置された死体の骨髄に微生物が入り込み、骨そのものが動くようになったモノをそう呼ぶ。

 その性質故に様々な個体が存在するのを確認されているが、個体数そのものは非常に少ない。

 また、強さは骨になった生物に依存する為固体によってかなり異なるのも特徴だ。

 リタが一息に説明すると、ニコはその場で少し考え込んだ。


「今回の強さはどのくらいになるんですか?」

「人骨のスケルトンで、強度は5程度になるかと思います」

「5!? なんでそのクラスのスケルトンがここに居るんだ?」


 バンダが思わず声を大きくした。

 強度5の人骨のスケルトン。即ち強度5相当の人間が死に、それがスケルトン化したという事になる。

 そこまでの強さの人物であれば死ぬことはそうないはずだ。

 無いと言い切れないのもエリアJの恐ろしさである。


「まあ、色々と事情がありまして」

「拙者はスケルトンの方がニコちゃんはやりやすいと思うでござる」

「犬の方が安全じゃないか? ニコは実戦経験はほとんど無いんだぞ」

「トウキョウを出るためにこの試験をしてるのに、安全を考えるんでござるか?」

「……そうだったな。どちらにせよ選ぶのはニコだ」

「スケルトンにします!」


 意気揚々とニコは答えた。

 彼女の頭の中に不安など一切無く、初めて見るスケルトンがどんなものなのか、1か月みっちり訓練を積んだ自分がどこまでやれるのか。それしか考えていなかった。


「存在強度は7相当とお聞きしていますが、証明書類等はありますか?」

「そんなの必要なのか? 聞いてないぞ」

「拙者が面倒な手続きすっ飛ばしたでござる。7相当も拙者の判断でござる」

「貴方が好き放題やって迷惑被るのはこっちなんですよ! 念の為確認しておかないと万が一が起きた場合に責任が取れません」

「俺もニコは7か8はあると思うが……こいつ強度診断受けてないからな」


 強度診断は名前のまま、探索者協会などで行っている存在強度がどの程度か確認するための診断である。

 特に受けないとならない義務は無いが、依頼を受ける際などに正式な診断書が無ければ許可が下りない場合がほとんどである。

 バンダは受かってから受けさせればいいかと考えていた。サムライから特に受けるように言われなかったからだ。


「必要があるなら先に言ってくれよ」

「必要ないでござる。拙者も下りて待機するゆえ」

「そういう問題じゃないんですよ! 書類にも書いてたはずですよ!?」

「面倒だからいいかと思ったでござる」

「本当になにやってるんですか!?」


 リタは怒り心頭といった様子だが、サムライは意にも介していない。

 ニコとバンダの苦労しているんだな、と言いたげな視線がリタに向けられた。


「はあ……もう、分かりました、なんとかしますよ。ではせめて、こちらの書類にサインをお願いします」


 出された書類は怪我を負った際や死亡した際に関するもの。

 細かく言うと協会側は一切責任を負わない、その代わり怪我をした際の治療費や施設の損害等は全て負担するというものだ。

 ニコはさらさらとそれにサインをし、リタもしっかりとそれを確認した。


「それではそちらの扉から下に下りられますのでどうぞ」

「急だな」

「実戦で準備が行えますか? 武器が必要ならここに来る前に携えておくべきです」

「私は大丈夫です! 頑張ります!」

「じゃあ、行くでござるよ」

 

 そして二人は扉を通りその先にあるリフトで下へと降りて行った。

 すぐに戦闘施設に下り、二人は施設の真ん中へと向かった。

 リタとバンダはそれを上で見守っている。中心に到達したのを確認後、リタは横にある操作設備へと向かった。


『それではよろしいですか?』


 スピーカーからリタの声が響く。

 それを合図にサムライがニコから離れた。ニコが大きく両手を振る。


『推薦資格実技試験、始めます!』

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