第17話 突入
「よし、下準備も終わったし、行くぞ」
「な、なんか、あっさりですね?」
「どういう事だ?」
「もっとこう、作戦とか……」
「男なら正面突破だ」
「えぇ……」
ニコを置いてバンダはずんずんと進んでいく。
2人が居るのは、市街地よりも電磁フェンス寄りにある廃墟街の一角。
グリムの情報によれば、その中のとある廃ビルの1階にカモフラージュされた地下実験施設への入口があるとされている。
2人は少し寄り道をしてから、この入り口へと向かっていた。
「にしても、本当に誰も居ませんね」
「この辺りはインフラ整備もされてないからな。水道も電気も通ってない……はずだ」
「はず、なんですね」
「どこにでも悪い奴ってのは居るもんだ。金さえ積めば電気や水も何とかなるような立場なんだろ」
そんな事を話しながら2人は廃墟街を進む。
ニコは真剣な表情で体にも力が入っている。一方でバンダは自然体で、散歩でもしているかのようだ。
「……緊張しないんですか?」
「しない。俺はいつ死んでも後悔しないように生きてるからな」
「羨ましいです」
「人生は死ぬまで生きる事ってだけだ。自分のやりたいようにやらなきゃ損だ。……着いたぞ」
路地の角から僅かに顔を覗かせ、それであろう廃ビルを確認する。
一見して、他の建物との明確な違いは見られない。
「行かないんですか?」
「監視カメラがあるかもしれない。どうせ入り口ぶっ壊すから遅かれ早かれバレるんだが、ギリギリまで襲撃を悟られない方がいい」
「じゃあ裏口とか……」
「そっちにも監視カメラはあるだろうよ。となると……」
キョロキョロと周辺を見渡し、ある場所に目が留まる。
「あそこは良さそうだな」
「別の廃ビル……ですか?」
「付いてこい」
目標のビルを大きく迂回し、バンダが目を付けたビルに移動する。
高さはほとんど変わらない。
中に入り、階段を上がりながら口を開いた。
「屋上から飛び移る。そこからはスピード勝負だな」
「と、届くんですか?」
距離は約50メートル程離れている。
ニコは少し不安げだが、バンダは全く問題無いと首を縦に振った。
「着地したら素早く1階まで降りる。1階に着いたらドアを見ろ。旧式ならドアノブが付いてるはずだ。タッチパネル式ならタッチパネルでもいい。人の出入りの頻度までは分からないが、使っているドアとそうでない物は必ず違いがある」
「やってみます」
「違和感のあるドアを見つけたら、スリーカウントで突入する。それまで声は出さず、ハンドサイン……は分かんねえか。何かあったらジェスチャーで伝えろ」
「た、例えば……?」
「なんでもいい。手を上げるとか、簡単なものでいい。どうしようもない、もしくは身の危険を感じたら声を上げろ」
屋上に辿り着くと、目的のビルを確認する。
バンダは錆び付いている柵を簡単に引きちぎり跳躍地点を確保した。
「突入したら俺の後ろにいろ。基本的には俺が片付ける」
「はい」
「何が起きるか分からんからな。もし俺に何か起きたら、1人で戦う覚悟もしておけよ」
「それはちょっと怖いですけど……頑張ります」
「よし。じゃあ行くか」
そう言うと、バンダはひょいっとニコを担ぎ上げた。
そして少し下がり助走距離を確保する。
「叫ぶなよ」
ニコが慌てて口に両手を当てた。
当然それを確認する事もせずバンダは走り出していた。
だんっ、と思いの外軽い音と共に2人の身体は大きく宙を舞った。
ほとんど音もなく、大きく膝を曲げてバンダが着地する。
ニコを肩から下ろして即座に屋上のドアを開けて内部に侵入した。
遅れないようにニコも慌ててそれに追従する。
流れるように1階へ続く階段の踊り場へと辿り着く。僅かに顔を出して確認するが、見張り番は見当たらない。
2人は静かに1階に降り、1つ1つドアをチェックしていく。
見つけた。
カモフラージュの為かドアは全てドアノブが着いていた。その内の1つに、明らかにホコリを被っておらずに使用されている形跡があるものを確認した。
すぐさまドアの側面に張り付いて右手を当てる。
ニコを手招きし、ドアに視線を向けたまま指を立てる。そして大きく右腕を振り上げた。
ごくり、と生唾を飲み込む音が聴こえる。
3、2、1。
どごぉん! と、凄まじい音と共にドアが室内に吹き飛んでいく。
ドアの影に隠れる程の速度でバンダは中に飛び込んだ。
室内には床のど真ん中に隠す気があるのかと言わんばかりの地下への入口に、何が起きているのか分からないといった様子の武装兵が左右に1人ずつ。
把握する間も与えず右手の兵士の頭を掴み、もう1人に思い切りブン投げた。
「おぉらっ!」
当然それを受け止め切れる訳もなく、2人まとめて壁に叩き付けられる。
間髪入れずにバンダの横蹴りが2人をまとめて突き刺した。めきめきめき、と壁ごと肉体が潰れていく。
即死を免れたとしても、生き残れる術は無いだろう。
「行くぞ!」
生死確認などする時間も惜しいと言わんばかりにバンダは地下への階段に飛び込んだ。
ニコは一連の光景に顔を歪めていた。
だが、迷いを断ち切るように頭を振ってバンダに続いた。
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