第2話 急な訪問、そして

 毎日毎日夜遅くまでどこかのサボり魔の代わりに書類仕事をしているため、体が悲鳴をあげている。


 まだまだ睡眠を欲している体を叱咤し、王城に出勤しようと準備をする。


 そんな時、一人の使用人が焦ったようにやってきた。


「若様! ドルト公爵令嬢がお越しです!」


 ・・・・は? 酷使しすぎている脳は今言われた言葉を理解するのに数秒を要した。


「え、なんで? こんな朝早くに?」


 同じ王城勤めの中でも国王や王子の側近は彼らがやってくるよりも早くにいなければいけない。


 目上の者を待たせるのは不敬に当たるからだ。それは貴族の邸でも同じだ。使用人は必ず、主人よりも早くに起きて仕事をするもの。俺は王子の使用人じゃないんだがな。


 つまり、遅れる。まあいいか。あの頭お花畑王子を相手にいつもいつも苦労させれてるんだ。もし遅れて罰則で解雇されても困るのは俺じゃない。実際、俺が居なくなって困るのは殿下と、他の側近たちだ。


 側近は他に二人いるが俺は二人より後に側近になったため、下に見られている。そう、俺以外の側近は殿下と同じような馬鹿で阿呆な考えなしだったというわけだ。


 今回殿下が引き起こした婚約破棄騒動には他の側近二人も関わっていたみたいだしな。


 考え事をしながらも、足はドルト公爵令嬢が案内された部屋に向かっている。


 俺が部屋に着くと、待機していた使用人がドアを開けてくれた。


「待たせてしまい申し訳ありません、ドルト公爵令嬢」


「あらいいのよ、楽にしてくださいな。今回はわたくしが朝早くに来たのが悪いのですもの、こちらこそごめんなさいね。お仕事についてはこちらが連絡しているから大丈夫よ、遅刻の心配はいらないわ。安心してちょうだい」


「そうだったんですね。わざわざありがとうございます」


「気にしないでちょうだい。それよりもあなたこそ大丈夫ですの? 隈がすごいことになってるわ」


「あー・・・・・すみません、お見苦しい顔を。全然平気ですよ、睡眠はきちんと取れてますから」


 他人にまで迷惑はかけまいと、ニコッと笑う。


「そうですか・・・・・無理は禁物ですわよ」


「心配してくださってありがとうございます。それよりも今日はどのような用件で?」


「今日わたくしが訪問したのは昨日のお礼です。あの時シリウス様が仲裁に入ってくださらなかったら、さすがのわたくしもどうしようもなくなるところでしたもの。そこで、ですわ! あなた、婚約者がいるでしょう? 噂に聞けばどうも不仲だというではありませんか。ですから今回のお礼として双方の仲を取り持つことにしましたの」


 急に目を輝かせて身を乗り出したと思ったら、なんかとんでもないこと言われたぞ・・・・


 そう、俺には婚約者がいる。同じ侯爵令嬢で、6歳の時に婚約した2歳年下の可愛い可愛い俺の婚約者だ。現在俺が18歳で王子と同い年、昨日の夜会はアカデミーの卒業を祝う祝賀会で、アカデミーの生徒全てが参加した。アカデミーは15歳から18歳までの貴族の子息令嬢がさまざまなことを学ぶ場だ。今までは側近の仕事はアカデミーが終わった後、王城でやっていたが俺はもう昨日で卒業してしまったため今日からは朝早く出勤しないといけないのだ。


 つまり、何が言いたいかというと。学園ではずっと殿下に付き従って婚約者に構う暇はない、アカデミーが終わった後も直接殿下と一緒に王城に向かって、夜遅くまで書類仕事。それが毎日3年間続くのだ。当然、会えるわけもない。不仲とまではさすがにいかない、と思いたい。だが、手紙も送れていない現状は・・・・・


 はっ、もしかしたらもうすでに嫌われてしまっているのではッ!?


「やっと気付いたって顔ね。いくら殿下のせいとはいえ、手紙の一つも送らないのはさすがに可哀想ですわよ」


 うわ、ハッキリ殿下のせいって言っちゃったよ。自分の婚約者のことなのにいいのか?


 そういえば。


「そういえば、ド「呼び方はもっと楽にしてちょうだい。堅苦しいのは苦手だから」リ、リアレンス嬢と殿下の婚約破棄についてはどうなったんですか?」


「そうですわねぇ、お父様がとても怒っていらっしゃるからおそらく近日中にはあちら側の有責で婚約破棄できるのではないかしら。もうすでに進めているとおっしゃっていたもの」


 うおっ怖いな。公爵家の権力は桁違いだということがわかる。だがそれだけではないだろう。ドルト公爵令嬢の父君、ドルト家当主の治める領地は隣国の超大国・グリムント帝国と接している。そのため、グリムント帝国との貿易が盛んなのだ。だからこそ公爵位の中でも最高の筆頭公爵家でもあるドルト家令嬢が王子の婚約者に選ばれたのだ。大国グリムント帝国との繋がりが欲しい国王が目をつけるのは当然と言えば当然だった。


 それに加え、リアレンス嬢は品行方正、美しく、真面目で、頭脳明晰と幼い頃から評判だった。彼女なら自分の息子である頭の悪い王子をカバーしてくれるという国王の思惑もあったのだろう。


 そんな国王の思惑を見事にぶった斬ってくれた息子に対し国王がどう対応するのか。楽しみでもある。


 まあ今回は完全に殿下が悪いんだから、国王もリアレンス嬢の父親には強く出れないだろう。


 第一、大国であるグリムント帝国と強い結びつきのあるドルト公爵家を敵に回すのは命知らずの行為だ。


 だから婚約破棄の手続きがスムーズに進んでいるのだろう。


「まあそれよりも。あなたの愛しの婚約者さんの機嫌を直しにいかないとですわね」


 ニッコリと目が笑ってない笑顔でそう言われた。やっぱり同じ女性として婚約者に放置されるのは許せないのだろうか・・・・


 そして四日後に、しばらく会っていなかった婚約者と久しぶりのお茶会をすることが決まった。


相手に今更言いづらいと遠回しにに言うとリアレンス嬢は、「わたくしも参加しますからこちらから伝えておきますわ。場所はもちろん、ここでですが」とのことだ。つまり任せておけ、ということだろう。


かくして、四日後に婚約者と3年ぶりのお茶会をすることになったのだった。


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