側近侯爵令息の憂鬱と歓喜

ラムココ/高橋ココ

第1話 婚約破棄


 あぁ、どうしてこんなことになったんだっけ?

今俺の目前で起きていることに脳が拒否反応を起こすが、どうしたって立場上理解しないわけにはかない。


 目の前では頭がちょっとふわふわしてらっしゃる我が主が隣に可憐な令嬢を伴って向かいの令嬢に何か、婚約破棄だなんだと威厳たっぷりに叫んでらっしゃる。周りの貴族たちは何事だと野次馬へと化している。


 だが俺の耳には一言も入ってこない。馬鹿王子の側近である俺はこの現状をどう治めるか、この後の尻拭いはどうするかということに今回も頭を抱えなければいけないのだ。阿保王子の側近に任命された時から俺にはそういう宿命がついて回っているのだ。


 そのためにはこの現状を把握しなければならない。憂鬱になりながらも目を向ける。


「リアレンスよ、君は自分が犯した罪を把握しているか?」


「ですから先程も申した通り、わたくしには身に覚えがありません」


「嘘を言うな! 我が愛する者に陰湿な行いを働いたであろう! まだ言い逃れをするつもりか?」


「何度も申し上げました。まずは私が働いたという悪事の証拠を示してくださいな」


「だからジュリアの言葉が証拠だ!」


「そうです! 私っ、リアレンス様に何度も、お前みたいな下賤な女がエル様に近づくなとか、教科書を破られたり、足を掛けられて転ばされたりっ! しまいには階段から落とされたこともありました! もう、私怖くてっ・・・・!」


「ジュリア本人がこう言っているんだ。十分な証拠だろう!」


「一体何度言えばわかるんですの? それでは完璧な証拠にはなりませんと申し上げていますのに。証拠というなら、いつ何時頃にどの場所でどんな人にどんなことをされたのか、教えてくださらないと分かりませんわ」


 ・・・・・・・こんなやりとりをずっと続けている。殿下は思い通りにならない現状に段々とイライラし始めているのが分かる。そろそろなんとかしないといけない。殿下のイライラゲージがパンクしたらどんな無茶なことを言い出すかわからない。


「殿下。ここでドルト公爵令嬢を糾弾しても周囲の目があるとそれも気にしなければなりません。今度一度話し合いの場を設けてそこでさらに追い詰めてやりましょう。個人的な話し合いならばどんなことを言っても大丈夫ですからね。彼女の逃げ場もないです。婚約のこともそこで相談したらいかがでしょうか」


「・・・・シリウス。う、うむ、わかった。そのようにしよう。リアレンス! 今度別の場でもう一度話し合おう! 覚悟しておくように!」


 殿下、これは話し合いではなく一方的な糾弾だと思いますがね、俺は。未だ殿下にひっついてるジュリア嬢はリアレンス嬢への糾弾を中断されて睨んできたが、とりあえず殿下がバカでよかったとホッとする。


 その場はお開きとなり、貴族たちが会場を後にする。俺は側近として殿下と共に会場を後にした。


 夜会後、殿下がサボって処理しなかった書類を夜遅くまでなんとか捌いて王都の侯爵邸に帰ったあと、これから追われる尻拭いに憂鬱になっていたら、いつのまにか執務机で眠ってしまっていた。


 しかし翌日、邸に予想外の来客が訪れたのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る