第4話 クズ男、恋をする
「じゃあ、今日はこの辺で終わりまーす!今日も来てくれてありがとう!また明日の配信で!バイバーイ!」
判決の日から実家に帰り、両親の協力の元、借金は少しづつ減っていっていた。借金もほぼ返し終わった俺は、仕事終わりにゲーム配信をするのが日課になっていた。
クズは口が上手い。元来ゲーム好きだったし、最高の暇つぶしだった。
日に日に視聴者は増えていき、やがて俺はそこそこ人気の配信者なっていた。
そんなある日配信にめちゃめちゃ美少女のアイコンの視聴者がコメントしてきた。
いつもの軽いノリでその子とも軽く会話を交わし、大盛り上がりの内に配信は終わった。
彼女は、いや、正確にはこの段階では性別なんかわからない。ただアイコンだけ女なだけかもしれない。だが、クズは単純だ。女の子と決めつけ、もてなした。そして彼女は配信に毎日通ってくれるまでになった。いわゆる推しってやつになったんだそうだ。
「ヒメちゃんは、固定でクエスト回るメンバーとかいるの?」
俺はある日の配信中の雑談でなんとなく尋ねた。
「いや、全然いなくて、いつもぼっちだからキャラいなくてモチベ下がっちゃって」
「そうなの?じゃあウチのグルにおいでよ!?みんな優しいよ」
俺は配信の常連たちとクエスト周回のグループを作っていた。そこに彼女を誘った。
下心のようなものがなかったとは言い切れない。だが、単純にゲームを楽しめてない彼女に、楽しんで欲しかったのが一番だった。
「本当ですか!?うれしいです。お願いします」
無邪気に喜ぶ彼女が微笑ましかった。
思えばもうこの時から、俺は君に何かを感じていたのかもしれない。
◇◇◇◇◇◇
なぁヒメカ
お前は俺がこの時誘わなければ、今頃別な誰かと幸せになり、別な人生を送っていたのかな?
今はもう確かめようがないけれど、もしまた生まれ変わって、君が現れたら
俺はもっとまともな人間になって、君を同じように誘うから。君は変わらない君でまた喜んでくれますか?
◇◇◇◇◇◇
彼女はすぐにグループに馴染み、ゲームを楽しんでいるようだった。
こうゆうグループをやっていると、必然イツメンみたいなのが出来てくる。俺は立場上わりと誰とでも遊ぶが、彼女は俺とばかり遊びたがった。
俺はといえば、当然嫌な気はしなく、ついに個人的にやりとりするようになっていた。メンバーでの個人間のやりとりはOKだったから、ルール違反ではない。
「ヒメ、今日はどこのクエストいく?」
「えっと、今日はこれをやりたいです。時間大丈夫ですか?」
そんなやりとりが、ただの言い訳になるのにそう時間はかからなかった。
ただヒメカと話したい。それだけだった。相手もそう思ってくれてたと思う。
「ヒメカって本名?」
「はい。たいきちさんは名前なんて言うんですか?」
「たいちだよ。」
「じゃあ、たいちさんって呼んでいいですか?」
「もちろんいいよ!」
平凡な会話だ。
「たいちさん、今日また親とケンカしちゃって……親と顔合わせたくないから、しばらく話ししててもらえませんか?」
「いいよ。なにがあった?なんでも話しな」
こんな日もあった。引きこもりがちな彼女は親と折り合いが悪いようで、どんどん俺に依存していった。
俺もまた、彼女無しではもう毎日がつまらない程大切な存在になっていた。
SNSでの通話は通信料だけでいいから、負担はない。後からわかったのだが、彼女はまだ高校1年生だった。俺は仕事柄誰とでも通話し放題にしていたから、毎日電話した。
1時間、2時間、3時間、通話する時間は日増しに増え遂には寝る間も繋ぎっぱなしにするようになった。冗談抜きで24時間ずっと電話を繋いだままの毎日になるまであっという間だった。
ちょっと電話が切れようものなら、彼女は不安がり、すぐにまた電話してきた。
本来ならうっとおしいかもしれない。ただ、俺はそんな彼女がたまらなく愛おしく思えた。
散々人を裏切り、同時に女にも裏切られた俺には、この子なら大丈夫だと思うには十分過ぎた。
これだけ一途で純粋で真っ直ぐなこの子なら、きっと俺は信じられる。幸せになれる。
そう思った。それは彼女も同じだった。
「たいちさんは、友達とかその………彼女さんとかにはなんて呼ばれてたんですか?」
突然の質問だった。
「ん?そうだなぁ。基本的にはたいっちゃんとかたいとかかな。後は彼女にはたぁくんて呼ばせてたな。彼女にしか呼ばせない特別な呼び方だからな。」
ヒメカは少し黙ったままだった。この沈黙が何か、俺はわかっていた。わかっていて言った。
(可愛いなぁ。妬いてるんだな)
「じゃあ、もしヒメが呼ぶなら、たいちゃん………ですよね?」
(どうしようか。もうちょい意地悪するかな?)
ニヤニヤが悟られないように冷静を装うが、我慢出来ずに思わず口にした。
「お前はたぁくんだろ。何今更言ってんだ。バカか」
照れ隠しでぶっきらぼうに言う俺。笑ってくれると思った。喜んでくれると。だが、違った。
「本当ですか?ヒメなんかでいいんですか?まさか、そう言ってくれるなんて思ってなかったから」
必死で涙をこらえながら言い終えると、たまらず泣き出した。
元来涙脆い俺も、思わずもらい泣きした。
「お前しかもういねぇよ。お前だけでいい。お前がいい。」
ヒメは号泣しながら、私も、とだけ言った。
けたたましくセミの鳴き声が響いていた。
一生一緒に過ごす相手、本当にそう思った。
もう夢中だった。彼女のその一途さに惹かれていた。俺はこいつと一緒なら立ち直れる。
遠距離だってかまわない。乗り越えてみせる。
「お前が卒業したら、迎えにいくから、結婚しような。」
「うん。する。絶対にする。たぁくんのお嫁さんになる。」
「でも、いいのか?俺わがままだぞ?亭主関白だし、ドSだし。」
彼女がM気質なのは、これまでの付き合いでわかっていた。
「むしろそれがいい。ヒメはたぁくんの為だけに生きる。たぁくんの為ならなんだってする。一生かけて尽くす。」
おいおい。これ以上俺を喜ばせてどうする。
ヒメは俺が言われたい言葉を自然に言える。
ヒメからしてもそうらしい。
「わかった。じゃあ俺が一生かけてお前を俺好みに教育してやる。俺だけの為の存在にしてやる。」
「本当?うれしい。ヒメ、そうなりたい。たぁくん専用の女になりたい。」
ここまで理想通りの相手なんていない。本心からそう思った。
もしかしたら、ヒメからしたら、ただの憧れで、夢中になってただけなのかもしれない。
でも、この時の俺は舞い上がって全てを鵜呑みにしていた。
彼女の俺への一途な思いに甘えきり、彼女を苦しめることになるなんて、想像もしていなかった。
クズは学ばない。何度も繰り返す。何度も何度も。
ヒメが傷つき、ボロボロになり、自分を傷つけることになるその時になっても。
◇◇◇◇◇◇
なぁヒメカ
もし時間が巻き戻せるなら、俺はお前になんと言おう。
お前はお前のままで、ありのままでいていいんだよ。
そう言えたらお前はあんなことしなかったのか?
お前の心が見えるならどれだけいいだろう。
馬鹿な俺は見えなきゃわからない。
馬鹿な俺は見えても気づかないフリをする。
◇◇◇◇◇◇
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