第17話 背徳は蜜、道徳は詰み

背徳は蜜、道徳は詰み



 ー シユの過去回想 グランドの片隅 放課後 7月後半 ー


 今日もスポーツチャンバラ同好会は僻地にマットを敷いてトレーニングしている。

 夏の日差しを遮る木々のおかげで多少火照っているが致命傷にはならない。

 気温は33度、とても人間が過ごせる環境ではない。


 倒したいセンコーがいる者。

 支えたいリーダーがいる者。

 そんな2人を支えたい者。


 夏の暑さを超克ちょうこくするほど青春には人を狂わせる魔力がある。


 「いや!!!暑いから!!!もうちょっと日が落ちてからやろーぜ?」

 「あははは!じゃあ開始時間を1時間遅くして勉強タイムを」ニィ

 「さ、さぁ練習だ!!覚悟しろセンコー!!」あせあせ

 「切り替え早!!!」


 別にリーダーは勉強ができない訳じゃない。

 ただ体を動かすことのほうが好きなだけだ。

 それを知っているのは先生だけではない。

 側近も当て字も分かっていて笑っている。


 「つううううくううっしいいいいいいいいいい」

 「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」


 園児服と水着な学生2人が学園ランニングコースを疾走する。

 当然理性なんて失踪している水泳部部長と副部長。

 逃げ惑う少女 2年 杉菜すぎなツクシ副部長。髪の毛はこげ茶。

 服装は水着。

 追跡者の少女 2年 紫杖しじょうリアト部長。髪の毛は紫色。園児服。


 普段の立場は逆であるが”神の試練”を達成した紫杖部長を止める者はいない。


 「な、なぁアレって・・・・」ドン引き

 「リーダーちゃん。何も見なかったことにしましょう」ひそひそ


 今回の事件の元凶、鬼百合シユが現況を見ないことにした。

 そうこれは水泳部の問題なのだと。


 「シユさあああああああああああん助けてぇー」

 「フフフ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 「ちょっ!こっち来てるし!!ええい正当防衛!許せっ先輩方!!」


 スパーン、スパーンと小気味いい音が鳴る。

 近接のレンジに入った時点で剣の間合い。

 伊達にリーダーを名乗っているわけではないと実力で示した彼女。

 胃袋空連合 1年 コードネーム・リーダー。白髪ショートの武闘派。


 ー 5分後 保健室 ー


 「で?今回の状況が読めないんだが?」


 先生が呆れながら麦茶を水泳部の2人に振舞う。

 この学園は私立わたくしりつなだけはあり夏場は麦茶、

 それ以外はお湯が蛇口をひねれば出る。

 以前はお湯ではなく紅茶が出ていたが各生徒たちの好みに対応しきれず

 妥結案が採用された。


 「いえ、ほんのちょっと素直になろうとしたんです。

 ワタクシがツクシとの会話を避けていましたので」

 「シリアスキャラなリアトがいきなり園児服来て迫ってきたら逃げるって!」

 「「「「「うわぁ」」」」」


 保健室メンバーの5人がドン引きするレベル。

 紫杖リアトは王子様風のイケメンフェイスが魅力の先輩。

 それが奇声を発して襲い掛かればだれでも逃げるはずだ。


 「こ、こほん。原因がどうであれ和解方面なら文句はないが、

 これ以上の珍事は私でもフォロー出来ないぞ?」

 「先生はシンクロの話になると露骨に第3者になりますよね?

 ドラマのシンクロガールズには顧問とのキズナ回もありますよ?」

 「いやぁ~他人だし。水泳部との仲良くなっても

 スポーツチャンバラ同好会にメリットないしな」


 シユの正論に対し緑髪の保健室先生が無気力に回答する。

 これは生徒のワガママ。別に部活じゃないから賞を取れるわけではないし

 履歴書に書けるものではない。

 海に紅茶を投げるが愚行。暴論で言えば”人生に必要がない”だ。


 「部活のメリット?そんなものはありません!!

 シユは体調の都合でみんなとシンクロはできません。

 それでも!シユがこのイベントを成功させる理由があるのです!!」


 先生の発言は”赤べこ”のように首を縦に振るシユが横に振って反論する。

 若干驚いているリーダーだが、保健室メンバー最古参であるが故

 胃袋空腹連合が来るまで先生と意見は対立していたことが多かった。


 「なら聞かせてもらおう。

 水泳部の領土であるプールは戦略的価値がない土地

 そして部員の引き抜きもしないのだろう?

 オマケに2か月だけの付き合い。

 まさか青春を謳歌したいがためという理由ではあるまい?」


 先生は自分の考えうる意見で反論する。

 当然特務機関の任務であるため目的後には去ることを隠しながら。


 普段の大胆不敵とも、生徒会長演説のような盛り上げ重視の会話術とも違う、

 対話拒否カウンセリングモード。優しい口調で自分のペースに誘導する。


 「シユは示したかったんです。

 大人が拒否した出来事をひっくり返すことを、

 胃袋空腹連合ちゃん達が挫折するきっかけとなった

 不条理な世界に革命を起こすために。


 それだけではありません。

 この学園は交通アクセスも悪く近場の町にも電車が1時間に1本しか来ません。

 オマケに食事は青色のペースト状の物体が主食で動物性たんぱく質も取れません。

 そして部活動戦国時代。

 ここまでの情報を提示すれば先生ならわかるはずです」


 ふむ、と考える先生。なるほどそういうことかと納得。


 「生徒のストレスが限界を迎えている、が正解だな。

 この学園の過激な部活動陣取り合戦もガス抜きなら道理も通るか。

 私立である以上両親に頼めばカネのチカラで別の学園への転入も容易いだろうな」


 「シユは先生への恩返しをせずに転校なんて許せません。

 生徒人数が減れば廃校も視野に入ります。

 この学園に愛着なんてありませんが保健室メンバーの解散なんて

 悲しい結末だけは避けたいんです」


 「・・・・イベントを起こし人気校になればシユ君の卒業までは

 学園を存続できる。それがシユ君の結論でいいんだな?」


 「はい。構いません」


 にらみ合う2人。シユは体力はないが先生由来の戦略構築力とハッタリがある。

 宇宙人である先生にはない”道徳”と”協調性”も彼女の武器だ。

 先に視線をそらしたのは先生だ。


 「あはははは!やはりシユ君と戦うのは楽しいな!

 何故君に人望があるか思い知らされる。

 奇跡を纏いまとい歴史を《うがつ》穿つ。

 いずれ私をも超える人材だ。

 反骨精神の化身がこんなところでくすぶってたとはな。

 あははははは!」


 勝手に戦って勝手に和解した2人に対しリーダーが激怒する。


 「ちょっと待て!!水泳部の話ほっといて何戦ってんだよ!!

 しかも口喧嘩で!!あんたら部長と顧問だろ!!

 スポーツチャンバラで決着付けろよ!!!」

 「リーダーが言いたいこと全部言ってくれた!」

 「軌通巴里きっぱり

 「ああそれなら今回は私、先生がカウンセリング担当だ。

 お互いの得意分野で戦って負けたらいうことを聞く。

 シンプルなルールだろ?」

 「流石にシユもあの珍獣たちを相手にしたくないというか」目そらし

 「言われてますわよ?ツクシ」チラっ

 「”たち”って言われてるからリアトもだよ」ドン引き

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