第16話 信じて送り出した水泳部部長が○○依存になって帰ってきたお話

 ー シユの過去回想 保健室 夜19時 ー


 先生ともう1人の来客者を寝かしつけたシユ。

 独自の薬品の匂いと先生の趣味ホワイトティーのアロマオイルが混ざった空間。

 甘い不思議な感覚に酔わされそうな保健室。

 夕方とはいえ7月の後半。窓を開けてもカーテンを生暖かい風が貫く。

 授業中はともかく放課後にはエアコンの電源をオフにするのが規則。

 よって扇風機で頑張るしかないのだ。


 トントンとノックの音。今日は来客が多いなとシユは思った。

 スポーツチャンバラ同好会がグランドの片隅にいないからかと推測。

 個人のプライバシーの為2人のベットをカーテンで隠す。

 グルッと1周すれば簡易的な閉鎖空間になる。

 立ち上がり客人に姿を現すシユ。


 「現在病人がいますのでお静かに・・・紫杖しじょう先輩?」

 「ええ紫杖リアトです。なんだか雰囲気が違いますね?」

 「あまり人には見せたくないんですよ、

 シユは病気に負けない明るい子ってイメージを通したいので。それでご用件は?」

 「例の生物なまもの杉菜すぎな ツクシが

 部活に来なかった件です。

 本日スポーツチャンバラ同好会もやってないようですし不安で」


 肩を震わせるリアト先輩。

 ツクシ先輩は4足歩行で人の尻目掛けて突撃する

 ”意思疎通ができるだけの人間族”なのだ。


 「事情は分かりましたから少しお話ししましょう。

 といっても氷で冷やした麦茶しか出せませんけれど」にっこり

 「お言葉に甘えましょう」


 3つ目のベッドにリアト先輩を誘導する。

 腰を掛けたリアト先輩に麦茶を差し出す。


 「ありがとうございますシユさん。本来ならばこれは水泳部の問題ですのに」

 「今はシンクロを成功させるための運命共同体。

 リアト先輩の問題は保健室メンバーの問題ですよ?」

 「・・・・正直言えばあなたが羨ましいです。

 部内で最強という訳ではないのに人望があって。胃袋空腹連合でしたか?

 自分と異なる派閥と両立していますし、今回のシンクロも協力していただいて。

 ワタクシは部長としてやっていけるかが不安です」



 本来ならば水泳部部長として皆を引っ張るタイミングで

 新たな部活を立ち上げたのだから部員たちも戸惑う。


 さらに副部長のツクシ先輩とも対立の形となっている。


 いやそもそも論点がおかしい。

 リアト先輩に対し好き好きアピールをしているツクシ先輩が敵に回る意味とは?

 シユは麦茶を一気飲みして気合を入れた後、先輩へ探りを入れてみる。


 「リアト先輩はツクシ先輩の事をどう思っているんです?

 ペットとかじゃなくて人としての感想です」


 「世話の焼ける妹みたいな感じでしょうか?

 ワタクシが手綱を握っていなければどこかへ行ってしまうと言いましょうか。

 あの子が遠くに行ってしまったらワタクシは1人になってしまいそうで。

 いえ決して部員たちと仲が悪いという訳ではないんです。ただ・・・・」


 そこまで言い切った後麦茶入りのコップをぎゅっと握り締めていた。

 ”ただ”その先はリアト先輩の口から語られることはない。


 「ただ心の底の悩みを打ち明けることができる人が

 ツクシ先輩ってことですか?」


 「シユさんには隠し通せませんね。

 ツクシが実力をつけたのが水上ストーカーならば、

 ワタクシはそれから逃げるために泳ぐ速度が上がったのです。

 普段の言動さえマシであるならばよかったのに」


 本当に残念そうではあるが内情は見えてきた。


 「分かりました。リアト先輩はツクシ先輩と仲良くなるきっかけが

 欲しいんですね?」

 

 「ええその通り。本当は第3者である”名前を言ってはいけない例の先生”に

 依頼したかったのですが不在でしたので」


(氷の解けた麦茶をグイッと飲み干すリアト先輩♡

 ダメですよ~。別の部活から提供された飲み物に疑いの目を向けないなんて)


 「作戦自体は考えてありますが・・・・どうしましたリアト先輩。

 水泳の疲れでしょうかフラフラしていて倒れそうですよ?」


 「い、いえワタクシは・・・・」どたり


 計画通り睡眠薬入りの麦茶でリアト先輩の意識を奪ったシユ。

 今回のポイントは氷で固めた睡眠薬。麦茶やコップには細工は無し。

 すぐに結果が出れば怪しまれるからだ。

 それにシユも同じものを飲まないと疑われる。

 氷は時間をかけて解けるものだから、シユは早い段階で一気飲みをした。

 よいこは真似してはだめですよ?


 ー シユの過去回想 保健室 20分後 ー


 「フフフ。起きてくださいリアト先輩。

 いえそのお姿ならばリアちゃんと呼べばいいでしょうか?」


 そういいながらリアト先輩の姿を鏡で見せる。


 水色の服で頭に黄色の帽子。名札には”りあ”と書かれている。

 いわゆる園児服なのだ。

 更に逃走防止用に両手両足そして首に鎖。


 「じゃんじゃじゃじゃーん。今話題のファッション。

 ”封印されしリアちゃん”です」


 「そんなシユさんまでワタクシを見捨てるなんて・・・・」


 失望の氷床で空中3回転トリプルアクセルしてるリアちゃんにフォローを入れる。


 「いえ見捨てませんよ?こちらをご覧ください。愛しのツクシさんです」


 カーテンを開けて運命の2人と対面させるシユ。


 「シユさん!!堪忍袋の緒が切れました!!

 今回のシンクロの件なかったことに!!!」


 「しー。彼女が起きちゃうじゃないですか?

 今の姿を見られたくないでしょうに」にやり


 「うう・・・」目そらし


 「リアちゃんはツクシ先輩から逃げていただけ。

 彼女は好意を向けていたんですよ。

 起きている時に真正面から言葉を話すのが難しいなら

 寝ている今がチャンスです」


 「わ、ワタクシは・・・・」モジモジ


 「まどろっこしいですね。今リアちゃんは園児なんですよ?

 当然”お漏らし”も考慮して紙オムツを履いてるんです。

 ツクシ先輩と仲良くなりたければ同じ変態になるしかありませんよ?」


 しばしの静寂の後リアちゃんが提案をしてきた。

 鎖を外してくれと。自由になった彼女はオムツの存在を確認し、そして。


 「神よ懺悔します。親友と同じ道を進むため愚行をお許しください。

 スゥ―。フー。んん♡ああああああ♡」


 寝ているツクシの顔がオムツで隠れるぐらい近くで聖水を生成するリアちゃん。

 つんざくようなアンモニア臭が一瞬したが気のせいであろう。


 神に懺悔し”聖戦”を終えたリアちゃんはリアト先輩に戻っていた。


 「シユさん。ワタクシほんの少しだけツクシの気持ちが分かった気がします。

 願わくば・・・・週8でいいんで今回と同じことを!!!」ぐいぐい

 

 「ちょっ!声大きい!起きちゃいますって。あと週8はやりすぎです。

 癖になる前に撤退をお勧めします」


 「いえ、これ以上の勇気ある行動はないと思います。

 大丈夫です仲直りは遂行しますので」はぁはぁ


 リアト先輩の鼻息が荒い。

 そう忘れていた。彼女も初対面でデリケートゾーンの話をする変態だった。


 シユは懺悔する、神がいるならば学園に珍獣を解き放ったことをお許し下さいと

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