第10話 仕込み
五十嵐さんには何とかすると言ったが、正直オークエンペラーの鎧を物理的に破壊するのはほぼ無理と言っていい。
俺の想定だと、光属性魔法で鎧を溶かすには果てしなく時間がかかる。
現状俺が使える魔法での突破は厳しい。
ならばここは、ユニークスキル君に頼らせてもらうことにしよう。
五十嵐さんが再びオークエンペラーと高速戦闘を行う。
先程と違い、五十嵐さんは避けることにフォーカスしているので、オークエンペラーの攻撃は全く当たらない。なんなら、結構余裕で避けているようにすら見える。
俺はオークエンペラーを観察し、動きの隙を探す。
ふむ、こう見てみると鉈を振った後が意外と無防備だな。
多分、絶対的な硬さを誇る鎧を身につけているから、そういった所まで注意を払う必要もがなかったのだろう。
とはいえ、オークエンペラーには規格外の反射神経がある。生半可なスピードで突っ込んでも返り討ちに会うだろう。
なので、全力で行く必要がある。
足に魔力を集中させながら、タイミングを図る。
――今だ。
己の足で地面を思いっきり蹴る。
地面を蹴る瞬間に地属性魔法で地面を隆起させることで、更にスピードを上げる。
一気に加速しオークエンペラーの元へ最短距離で突っ込んでいく。
しかし、オークエンペラーまで残り4メートルほどまで距離を詰めた時、オークエンペラーの目がグイっとこちらに向く。
完全に気づかれたな。
しかし、もう間に合わないだろう。鉈は既に振り切っている。
そう高を括っていた俺を嘲笑うかのように、オークエンペラーは反応して見せる。
振り切った鉈を、上手く反動を利用して振り子のように返し、こちらへの攻撃に転じる。
(マジかよ!?こりゃマズイな)
このままだと俺の体は鉈にちょん切られる。すぐさま回避に動こうとするが……
「っ!!」
五十嵐さんが両手に持つ2本の双刀でオークエンペラーの鉈を受け止める。
(マジでナイスッ!!)
回避をキャンセルし、オークエンペラーの纏っている鎧に触れる。
「【融合】」
すぐさまユニークスキルを発動。
オークエンペラーの鎧に微量の土を融合し、すぐにオークエンペラーから距離をとる。
どうやら、オークエンペラーは何をされたか分かっていないようだ。まあ実際ただ触っただけだしな。
……実を言うと、別にオークエンペラーの鎧に触れなくても融合を発動することはできる。
そもそも、俺のユニークスキル、【融合】の発動条件は融合するもののうちの1つに触れていることだ。
ただ、どちら1つにしか触れていない時は、両方に触れている時に比べて消費魔力が2倍になる。
そのため、1つにしか触れていない状態だと魔力枯渇になる可能性が高かった。
魔力枯渇とは、残存魔力量が0になることだ。
残存魔力量が0になると、魔石からの吸収やユニークスキルで魔力を回復することができない。
RPG等で瀕死の味方に回復が使えないのと同じ感じだ。
つまり、魔力枯渇は戦闘不能も同然と言っていい。
実際、【融合】使用後の俺の残存魔力は最大魔力量の40%ほど。鎧に触れずに【融合】を使っていたら魔力枯渇になっていたはずだ。
【融合】の消費魔力は、融合するものの大きさや価値などに依存する。
あの巨体のオークエンペラーが身につけているほどのサイズで、あれだけ硬い金属で出来た鎧なら、これだけ魔力を持っていかれても何も不思議では無い。
ズボンのポケットからビー玉ほどのサイズの魔石を取り出し、魔力を回復する。
「五十嵐さん!!仕込みが終わりましたよ!!」
俺が大声でそう言うと五十嵐さんは戦闘をやめて一瞬で俺の元に戻ってくる。
「そういや、さっきアレ、ありがとうございました」
「早く終わって良かったよ。そろそろ僕の魔力もギリギリだったからね」
「魔石は?」
「もう使ったよ」
思えば、五十嵐さんはこの部屋に入った時からずっとあの化け物と戦い続けている。魔力も体力もかなり消耗しているだろう。
それにしても、五十嵐さんがここまで消耗するとは驚いたな。結構余裕そうに見えていたのだが、どうやら想像以上にアイツはヤバいらしい。
「ここからは俺一人でやりましょうか?」
「本当は僕も参加したいけど、今の状態で参加しても足を引っ張ることになるだろうし……お願いするよ」
「はい」
こうして、俺と五十嵐さんの久しぶりの共闘は、開始して2分も経たずに終了した。なんか物足りないし今度久しぶりにレイド組むか。
五十嵐さんを追ってきたオークエンペラーに対して、刀を持って向き合う。
さっき触ったこと、結構警戒されているな。とりあえず警戒を解くために普通に戦うか。
一般的に、人間が魔物相手に長期戦をするのは良くないとされている。現に、五十嵐さんはもう戦うのが厳しいが、オークエンペラーはまだまだピンピンしている。
その理由は、魔物の魔力量が人間に比べてかなり高いことにある。あくまで同ランクレベルで比較したときの話ではあるが。
じゃあ、人間が莫大な魔力量を得たらどうなるのか?
答えは簡単。知恵で上回り、ユニークスキルを持つ人間が圧倒的に有利になる。
それを今から、俺が目の前の魔物に証明して見せよう。
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