第9話 王の中の王

 俺は立ち上がり、オークロードの方へ歩みを進める。

 クラスメイトはそれに気が付くと、俺のことを奇異の目で見てくる。


 さて、どうしようか。

 俺がオークキングの相手をしようかとも思ったが、多分アッチの方が状況がヤバいので、できれば俺は向こうの相手をしたい。

 あと、単純にアレと戦ってみたい。

 

「!?おい、待て今野!!」


 先生が俺を呼び止める。

 

「先生、オークキング達の相手を頼んでもいいですか?」

「え?」

「とはいえ、流石に先生一人では厳しいので……シルヴィス」

 

 俺の背後に現れるシルヴィス。

 こいつ、ホントに俺が呼んでから来るまでが早いな。こいつ暇なのか……?まあ助かるからいいんだけど。


「あのオークキング達の相手を頼む。この人と一緒に」

「倒してもいいのか?」

「出来るなら倒してもいいが、最悪時間を稼ぐだけでいい。出来るだけ彼らを守ることを優先してくれ」

「分かった」


 先生も最低Bランクレベルの戦闘力はあるはずだし、なんとかなるだろう。

 シルヴィスは大丈夫だ。この前A⁻ランクの魔物とタイマン張って勝てたとか言ってたし。


「おい今野……お前まさか」

「あのままだと五十嵐さんは十中八九敗北します」

「!!」


 あのオークの魔力量からして、あのまま持久戦になれば五十嵐さんの魔力量が先に尽きる。そうなれば五十嵐さんの負けだ。


「っ!……お前に、できるのか?」


 何やら迷いを含んだ表情で俺に尋ねる先生。


「先生、実は知ってますよね?俺が裏で迷宮に潜ってるの」

「!?」

「なんなら先生、この前こっそり俺の事尾行してましたよね」


 実際に姿は確認することはできなかったのだが、普通に魔力の質で分かる。多分俺の強さもバレているだろう。


「はぁ……分かった」


 先生は諦めたようにそう言った。


「もともと、迷宮の難易度を見誤ってしまった私に責任がある。オークキングの相手は任せろ。くれぐれも死ぬなよ」

「そちらこそ」


「待ってください!」

「薬師寺?」


 いつの間にか立ち上がり、俺たちの前に来ていた薬師寺。


「俺も先生を手伝います」

「いや、それは……」

「今野は良くて俺はダメなんですか?」

「グッ……」


 それを言われてしまったら先生も耳が痛いだろう。


「俺はいいと思いますよ」

「今野……」

「体力もまだ残ってるっぽいし、戦力的には十分です」


 それに、彼のぶっ壊れなユニークスキルがあれば、オークキングの相手も十分……いや、十二分にできるだろう。


 結局先生が折れて、薬師寺もオークキングと戦うことになった。これで3対3と数は互角になったな。


「あ、そういやシルヴィス。剣使うから……」

「ああ」


 シルヴィスから剣を返してもらう。剣には傷一つついてない。


「どうだった?使い心地は」

「信じられないほど硬い剣だな。恐らく俺の全力にも耐えられるだろう。切れ味は並だが、魔力伝導率で火力は補える」

「ほうほう」


 この剣を作った時から、切れ味に関しては少し心配していたが、どうやら何とかなるようだ。

 

「じゃあ行くわ」

「ああ、俺も終わったらそちらに向かう」

「おう」


 俺は『身体強化』をかけ、全速力で五十嵐さんの方へ向かう。

 道中で魔力をケチっといて良かったな。まだ9割以上残っている。


 とりあえず、出会い頭にオークに一発入れとくか。

 そのまま走ってオークの方へ突っ込み、刀を構える。

 ……やっぱこの刀、結構軽いな。

 オークは五十嵐さんの相手をしているので、こちらに気づいていない。


 というか、さっきからオークオーク言っているが、正確に言えばアレはオークじゃないんだよな。

 だからといってオークキングのような名前があるわけでもないし。

 オークキングを束ねる王……王の中の王……オークエンペラー、とでも呼ばせてもらおう。

 

 刀に魔力を込める。

 実は、魔力はそこまで不思議で特別な力というわけではない。

 魔力は、一言で言うなら万能エネルギーだ。

 あらゆるエネルギーに変換することができるし、体に纏うだけで力が増す。


 走った勢いを乗せ、そのままオークエンペラーに切りかかる。


 刀は――オークエンペラーの鉈で受け止められる。


 想定外の超反応。だが……


「予想外じゃないな」


 瞬間、光線がオークエンペラーに向けて発射される。


 オークエンペラーは驚きを隠せない様子だ。

 そりゃそうだろうな。だって……


 俺のから光線が出てきたんだから。


 光線が突き刺さり、オークエンペラーは部屋の壁の方にへ吹っ飛んでいく。


 普通、魔法を使う時は手をかざして魔法陣を構築するので勘違いしがちだが、実は魔力さえ流れれば体中どこからでも魔法は打てる。

 皆が手を使うのは、人間の体で手が最も魔力操作に慣れているからだ。


「睦月くん!?」 

「助太刀に来ました」

「いや、有難いけど……いいのかい?」


 五十嵐さんが言いたいのは俺が普段手を抜いていたことだろう。


「俺は大丈夫ですよ。むしろすみません。折角隠しててくれたのに」

「気にしなくていいよ。君が来てなかったら負けてただろうし」

「そう言ってくれると助かります」


 少し五十嵐さんに対して申し訳なさを感じつつも、すぐに切り替えて戦況について尋ねる。


「パワーもとてつもないけど、全く対処出来ないわけではないよ。本当にヤバいのは耐久力。あの鎧のせいで一ミリたりともダメージが入っていないよ」

「マジですか……」


 確かに五十嵐さんはAランクの中では火力が乏しい方だが、それでも並のBランク冒険者よりは攻撃力がある。それでもダメージを与えられないとは……


 とにかく、あの鎧をどうにかしない限り、攻略は不可能だろう。

 だが、正直俺の魔法も火力に乏しい物が多い。

 そもそも、俺の使える水、地、光属性はどれも火力より汎用性に長けた魔法が多いからな。

 金属を柔らかくするなら火属性魔法なんだが、尚早と俺は使えない。


「グオオォォォ!!」


 先程吹っ飛ばしたオークエンペラーが咆哮を上げながらこちらに戻ってくる。

 光線が命中した胸元には……少しだけ鎧が焦げた跡がある。が、オークエンペラーの体までは届いていない。

 やはり、可能性があるなら光線系の光属性魔法か。


 というか、一応さっきの上級魔法だったんだけど……硬すぎだろ。俺の剣とどっちが硬いのだろうか。

 オークエンペラーの鎧を構成している金属は普段かなり地属性魔法を使っている俺でも知らないものだ。

 こういう時に異世界テンプレチートの鑑定スキルが必要なんだよなあ。ここ異世界じゃないけど。


「やはり僕がダメージを与えるのは厳しそうだ。僕がアイツを引き付けて時間を稼ぐから……」

「はい、その隙に俺が何とかします」


 一応、全く策が無いわけではない。上手くいくといいんだけどな……


 こうして、俺と五十嵐さんの久しぶりの共闘が始まった。










 


 

 


 


 





 






 

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