第6話 大迷宮
迷宮遠征の当日、俺は駅前の広場へと向かっていた。
『9時に駅』
朝一に通話用の魔道具を確認して残っていたメッセージだ。この魔道具を持っているのは俺以外に一人しかいないので、必然的に誰からのメッセージかが分かる。
それにしてもアイツ、もし俺が気づかなかったらどうするつもりだったのだろうか。
家から10分ほど歩けば、駅前の広場に到着。現在の時刻は8時40分。集合の20分前だ。
別に俺はいつもこんなに集合時間より早く来ているわけじゃない。普段は大体5分前ぐらいだ。この時間に来ているのにはちゃんとした理由がある。
流石にまだ待ち合わせ相手は来てないだろうとは思いつつ、一応周りを見渡す。
「って、はい?」
なんでやねん。
広場の中心に立っている木、その近くに待ち合わせ相手――綾音の姿を発見した……それも金髪の男2人組に絡まれている。
俺が早く来た理由……それは綾音を待たせると大体ナンパに遭うからだ。
てかアイツ、来んの早すぎだろ。何時からいるんだよマジで。
男が綾音の手を掴もうとするが、綾音はそれを澄まし顔であっさりと避ける。アイツはユニークスキルが戦闘系じゃないのにも関わらず無駄に戦闘力高いからな。
とにかく、面倒臭くなる前にさっさとどうにかしよう。
綾音の方へ近づくと次第に声が聞こえてくる。
「というか、さっきから胸ばっか見過ぎです。女の子を誘うなら下心は表に出さない方がいいですよ?」
綾音がそういうと男たちの表情が恥辱に染まる。
確かに、綾音はその小柄で細身な体系にしては中々のものをお持ちである。
ってそうじゃなくて……
「お前……なんでわざわざ火に油を注ぐようなこと言うんだよ」
「お、今日は珍しく早いね」
ケロッとした様子でそう言う綾音。まったく、誰のせいだと思ってんだこの野郎。
「あ?なんだお前?」
ドスの利いた声で威圧してくるチャラ男。
「コイツの連れですよ。それよりも、気づいてないんですか?」
俺はそういって周囲を見渡す。男たちもそれにつられて周りを見る。
周囲の人々は皆、男たちに軽蔑の目を向け、ひそひそと話をしている。
男たちもそれに気づいたのか、表情に少し焦りが見える。
「これ以上何かしたら……もしかしたら通報されるかもしれませんよ」
「チッ!」
そう言うと男たちは急いで去っていく。やはり人間、集団圧力には敵わないのだ。
ふぅ。面倒臭いことにならなくて良かった。もし物わかりの悪い馬鹿だったら、最悪暴力で解決するしかなかったからな。
ちなみに、さっきの民衆のうち半分は俺が光属性魔法『
ああいう人たちは周りが見えていないので、こんな風に民衆を偽装したり、パトカーのサイレンの音を鳴らしたりするとすぐに逃げてくれる。本当に小物すぎて笑いそうになってしまう。
「いや~、いつも悪いねぇ」
「別にいいけど。ってか、お前来るの早すぎだろ。あんま待つ時間が長いとああいうのに絡まれやすいから、次からはもっと遅く来い」
「そうする」
一応そう言っておくが、念のため次は30分前に来ることにしよう。
そう思っていると、綾音がこちらをじっと見つめてくる。
「なんだよ?」
「いや、あの人達を見てて思ったんだけど、睦月って全然私のことそういう目で見てこないよね」
「そうか?」
いや、確かにあの人達みたいにガン見することは百パーないけど、まったく見てないかと言われるとそこまで自信が無いんだが。
「胸見てるときはたまにあるけど……」
「あるじゃねえか」
「だけど、なんか興奮っていうか下心っていうか、そういうのが感じられないんだよね」
「へー」
多分それ、年のせいです。
俺の精神年齢は今年で36歳、そろそろアラフォーに差し掛かっている。
そのせいか、綾音を見ているとなんか……父親のような気分になる感じがする。子供はおろか結婚すらしたことないけど。
これが……父性!?
「もしかして枯れてる?」
「んなわけ」
ちゃんと男子高校生並みの性欲はある……はずだ。多分。
「ま、そんなことは良いから行くぞ」
「あいあいさー!」
こういう所が娘っぽく見える理由だと思うんだよなぁ。
電車を乗り継ぎ、大迷宮に到着。
迷宮の入り口周辺は露店が並んでいて、かなり多くの人で賑わっている。露店では武器や食料が売られていて、ここで迷宮攻略の準備をしていく人も多い。
A組のメンツを発見したが、まだ来ているのは3分の1程度。まあ、予定より20分も早くついているし、当然と言えば当然か。
クラスメイトの元に行った綾音と別れた俺は、暇なので露店を回ることにした。
実は俺、横浜大迷宮は来るの初めてなんだよな。普段行くのは普通の迷宮だし、他の人とレイドを組んで攻略するときは東京大迷宮の方に行くし。
大迷宮の近くなだけあって中々上質な武器が売っているが、俺に必要なものはなさそうだ。
露店に沿って迷宮の入り口の方に歩いていくと、売却スペースが見えてくる。ここでは、迷宮で手に入れた魔石やアイテムを売却することができる。
迷宮周辺にはホテルなどの宿泊施設も結構あるため、実質迷宮で稼いで迷宮に住むようなことも可能なのだ。
「っと、集合まであと5分か」
いつの間にか結構時間が経っていたみたいだ。少し急いで集合場所へ戻る。
集合場所に戻ると、もう俺以外全員が揃っている様子。クラスメイトからの視線が痛い。
俺が位置に着くと、水上先生が話し始める。
「よし、全員揃ったようだな……」
その後、持ち物の確認やらなんやらを終え、迷宮に出発する……と思っていたが。
「先生、今日来ると言っていたAランク冒険者の方は?」
「多分そろそろ来るはずだ」
「こんにちは」
「!!」
いつの間にか先生の隣に立っていた男性が挨拶をすると、皆が驚く。
「なんだアレ、テレポートか?」
「すげー!」
テレポート系のユニークスキルはレアなので皆興奮しているが、残念ながらあれはテレポートではない。
なぜなら、動きの軌跡が見えたからである。テレポートの場合、一瞬で座標に移動するので、動きが見えるはずがない。とはいえ、普通は見えないのでテレポートと勘違いするのも無理はない。
実際は高速移動系のスキルだ。それもかなり高位のもの。
そして俺は、高速移動系のスキルを使えるAランク冒険者には心当たりがある。
「急に飛んでくるな。生徒たちもみんなビックリしてるだろ」
「すみません。少し急いでいたもので」
「まあいい、まずは自己紹介をしてくれ」
「はい。皆さん、僕はAランク冒険者の
五十嵐千隼。ユニークスキルと同じ『神速』の二つ名で知られているAランク冒険者であり……俺とレイドを組んだことがある数少ない冒険者の一人だ。
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