第5話 武器

 6限の戦闘訓練を終えた俺は、【エンチャント】を頼んでいた武器を受け取るために綾音の家に向かっていた。

 綾音の家は高校から徒歩5分ほどの場所にある。何度か言ったことがあるので、特に道に迷うことなく到着した。

 ピンポーンと玄関のチャイムを鳴らすと、ダダダッと階段を駆け下りる音が聞こえた。


 ちなみに、なぜ一緒に来なかったのかと言うと、綾音が部屋を片付けるために先に帰ったからだ。アイツはああ見えて部屋が汚いからな。

 ガチャンとドアが開く。


「あと5分だけ待って!」

「はいよ」


 別に武器だけ受け取れればいいから、無理に部屋を片付けなくてもいいんだけどな。


 この世界ではスマホを弄って時間を潰すことが出来ないので、俺は普段は魔法で遊んで時間を潰している。

 地属性魔法と水属性魔法、それに【融合】を使って粘土のようなものを作る。

 それを操作し、記憶の中にある東京スカイツリーを再現してみる。

 ……なんか思ったよりもそれっぽいのができたな。


 ユニークスキル【融合】には、自分で【融合】したものを自由に変形できる力がある。

 もちろん、変形のにも魔力を消費するし、変形の精度を上げるのにもかなり練習が必要だった。


 最近やっと練度が上がってきて、これがかなりぶっ壊れな能力なことに気づいた。

武器の生成など、地属性魔法との相性が抜群なのだ。極論、金属を利用したものなら何でも作れる。


「入っていいよ……って何それ?」

「適当に作ったタワーの模型」

「にしてはやけに繊細だけど」

「気にするな」


 そういや、この世界にはまだ東京スカイツリーはないんだった。とりあえず適当に答えて誤魔化しておく。


 家の中に入り、綾音の部屋のある2階に上がる。思えば、綾音の家って結構久しぶりに来た気がする。

 2階の廊下を進んでいき、1番奥の部屋のドアを開ける。


 目に入ったのは、今片付けたのが目に見てわかるほど不自然に綺麗な部屋。心なしか前に来た時よりもよく片付いている気がする。これは俺のおかげで片付けが上達したといっても過言ではない……

 綾音の部屋の特徴と言えば、なんと言っても魔法書の詰まった巨大な本棚と、ガラスのショーケースに仕舞われている魔道具の数々だ。

 これ最初に見た時俺は、ラノベの詰まった本棚と、ガラスのショーケースに仕舞われているフィギュアを連想してしまったことから、勝手に魔法オタク部屋と呼ばせてもらっている。

 綾音は部屋に入ると、そのままショーケースの方へ向かう。

 ショーケースの下にある引き出しを引き、中を漁り始める。まさか……


「よいしょっと。はい、コレ」


 差し出されたのは長さ70㎝ほどの刀。俺が綾音に【エンチャント】をするように頼んで預けた刀だ。

 材料は、俺の全魔力をつぎ込んだ地属性上級魔法『金属生成』で創った鉱石、トパーズと魔石を【融合】して作った合金だ。魔石を【融合】することで、従来より硬度は落ちるが、その分刀が軽くなり、魔力伝導率が高くなる。

 【エンチャント】するように頼んだ魔法は、主に俺の使えない火属性と風属性の魔法だ。ちなみに綾音は地と闇以外の4属性適性持ち。

 その他にいくつか無属性魔法の付与も頼んでおいたのだが、これは今は秘密だ。

 そんなことよりも……


「お前……なんでガラクタの所に入れてんだよ?」


 この引き出しは綾音の【エンチャント】の失敗作、不良品を詰め込んでおく場所だ。

 本人曰く、いつか使えるかもしれないから取っておいているとのこと。そういう考えだから部屋が汚くなるんじゃないかと思ってしまう。


「隠すならココがベストだと思わない?親もわざわざココを開けようとは思わないでしょ」

「いや、そりゃそうだけど……」


 なんか、自分の刀が失敗作扱いされてるみたいでなんとも言えない気分になる。いや、別にそういう意図が無いのは分かってるんだけども。

 とりあえず、渡された刀を軽く持ってみる。【エンチャント】が付与されただけなので、感覚は変わっていない。


「よくそんな重い刀使えるよね」

「これでも大分軽い方だぞ?」


 この刀の重さは約2kgと、このサイズにしては重いが、近接戦闘を行うときはほとんどの場合『身体強化』を使用するので、さほどの問題でもない。


「振り回さないでよ?」

「しねーよ。だから俺の事をなんだと思ってるんだ」


 さすがの俺でも、家の中で振り回すことはしないって。基本、武器や魔法の試運転は迷宮で事足りる。

 それにしても、どうやって持って帰ろうか。【融合】の変形を使えば持って帰れるには帰れるが、元の形に戻すのに時間がかかるので却下。


「シルヴィス」


 俺がそう呟くと、俺の後ろに銀髪の男が突然現れる。


「なんだ?」

「コレ使っていいよ」


 そう言って俺はその男、シルヴィスに刀を投げる。シルヴィスは2㎏超えの刀を片手で難なくキャッチする。


「いいのか?かなりの業物のようだが」

「俺が使うときは呼ぶから、その時だけ返してくれればいいよ」

「分かった」

 

 そう言うとシルヴィスは一瞬で消え去った。


「今の誰?」

「んー、俺の……配下?使い魔?的な奴」

「へー。まぁあんま深くは聞かないでおくよ」

「助かる」


 ここでしつこく聞いてこない所が綾音の良いところだ。相手のされたくないことを汲み取る力が高い……こういう所がコイツがモテる理由なのかもしれんな。知らんけど。


「さてさて、対価はしっかりと払ってもらうからね~」


 そう言ってニヤニヤと笑う綾音。まったく、言わなくても出すっての。


「何が欲しい?」

「んー、とりあえず鉄と銅を1㎏ずつ、それと……」


 言われた金属をひたすら地属性魔法『金属生成』で作り出していく。ヤバい、結構魔力持ってかれたな。本当に上級魔法は魔力の消費量がシャレにならない。

 

「こんなものでいいかな。じゃあコレにて取引成立ってことで」

「おう……じゃあ帰るぞ。悪いが今日は残存魔力が少なくて魔法研究はできそうにない」

「了解。じゃあ、次は迷宮で」

「あい」


 今日は金曜日なので、次に会うのは月曜日の迷宮遠征の日だ。土日に呼び出されなければ……

 いや、本人が迷宮でって言ってるから流石にないよな。うん。

 

 



 

























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