第4話 属性

 魔法戦闘は、まず相手の使える魔法の属性を見極めることから始める。なぜなら、魔法は属性によって戦い方が結構異なり、相性が存在するからだ。


「『聖槍雨ホーリーレイン』」


 最初に薬師寺が放ってきたのは光属性中級魔法の『聖槍雨』。無数の光の槍がこちらへ飛んでくる。

 こちらも同じ『聖槍雨』で相殺することにする。相手と同じくらいの規模をイメージして魔法を発動。

 しかし……


「あれれ?」


 こちらの全ての槍が相殺しきることができず、相手の槍のみが残ってこちらへ向かってくる。おかしいな。同じくらいに打ったつもりだったんだけど。


「『水壁ウォーターウォール』」


 水壁を光の槍の進行方向に対して斜めに設置する。光の槍は全て屈折し、別の方向へと飛んで行った。

 ちなみに、魔法の流れ弾については、グラウンドの周りに強力な結界が張ってあるので特に問題ない。そもそも中級魔法くらいなら一定距離で自然消滅するし。


 てか、そんなことはどうでもいい。それよりもさっきの魔法だ。

 同じ魔力量を込め、同じサイズにして打ったのに相殺できなかったのはなぜだ?

 理由はいくつか推測できるが、最も可能性が高いのはユニークスキルによる効果だろう。

 魔法の威力を上げる系統の何か。特に詠唱は無かったので恐らく常時発動型だと思う。

 とりあえず、今度はこっちから仕掛けよう。


「『岩石砲ロックキャノン』」


 地属性中級魔法の『岩石砲』を3つ放つ。地属性魔法は弱点が少なく、色々と使い勝手がいい。中級魔法以上の岩石を用いた魔法なら水、風に対しても不利を取られることはない。

 ちなみに、ちゃっかり先ほどの『聖槍雨』では相殺しきれない威力に調整している。向こうが気づくかは分からないが。

 だが……


「嫌だねえ」


 相手も同じ魔法、『岩石砲』を使用する。結果はもちろん相殺。

 土属性も使えるのか。なんかことごとく俺と適性がかぶってるな……




 その後も魔法の打ち合いが続いたが、どの魔法も相殺に終わった。


 やはり、対人戦はどこか慣れないな。魔物が相手のときはとにかく殺せばいいので、喉や心臓を狙ったり、大規模魔法で殲滅したりできるんだけどな。

 というか、この戦闘訓練って何をしたら勝ちなんだ?魔法を相手に当てたらか?でも魔法によっては危ないのも結構あるし……。

 というか……


「薬師寺」

「なんだい?」

「お前ってもしかして全属性適性持ちだったりする?」


 俺がそういうと、薬師寺の動きがピタッと止まる。


「……なんでそう思ったんだ?まだ俺は3属性しか使ってないだろう?」

「うわぁ」


 コイツ、分かりやすすぎだろ。本人はポーカーフェイスで振る舞っているつもりなんだろうが、誰がどう見ても分かるぞこれは。ってか、まだって言っちゃってるし。


「そりゃさっきから俺が使った魔法と同じ魔法しか使ってないからだ。最初はたまたま属性が被ってるのかと思った。だが、俺が水属性魔法を最初に使ったとき、お前が魔法の詠唱に入るのがあまりに早すぎた。あの即詠唱は相手と同じ魔法が使えることを確信してないとできない」

「……正解だよ。俺は6属性全てに適性がある」


 やはりか。というか、全属性適性なんて人生で初めて見たな。しかもコイツは、それぞれの魔法の練度が高い。


「そういう君こそ、ユニークスキルは使わないのかい?」

「お前だって使ってないだろ。常時発動の光属性魔法の強化は除いて」

「それも見抜いていたのか。俺のユニークスキルは少し特殊でね、効果は全て常時発動型なんだ。光属性魔法の威力上昇もその一つだよ」

「つまり、残りの効果は俺に対して効果がないと」

「そういうことだよ」


 なんというか、スキルというよりは特性みたいだな。


「それにしても、これってなんのための訓練なんだろうな?対人戦なんて練習しても意味ないだろうに」

「いずれ戦争にでも利用されるんじゃないか?」

「嫌なこと言うなよ……」


 さすがにない……とは思うが、断言はできないな。少なくとも魔王がいるうちはないと思うが。


「そろそろやめにしないか?魔力も大分尽きてきたし」

「そうだな」


 かれこれ20分ほど、ひたすら中級魔法を打ち合っていたからな。俺の残存魔力もそろそろ半分を切りそうだし。

 人間の魔力は、自力で回復する手段が睡眠しかないので、一日に使える魔力量が限られている。


 その一日に使用できる量、最大魔力量は主に遺伝で決まるものだ。

 しかし、子供のうちは魔力の使用によって伸ばすことができる。年齢を重ねるにつれて上昇率は悪くなるが。


 転生者である俺は生まれた時から自意識があり、幼少期も結構バンバン魔法を使っていたので、最大魔力量はかなり多いほうだ。ぶっちゃけこれが一番の転生特典な気がする。

 ちなみに、魔物は平均的に人間よりも最大魔力量が多い。そのため、魔物を相手に長期戦を行うのはかなり厳しい。

 

「それにしても、あれだけ中級魔法を連発してピンピンしてるなんてね。藤川さんが一目置いてる理由が分かった気がするよ」

「なんでそこで綾音が出てくる?」

「だって彼女、君以外の男子には結構塩対応じゃないか」

「そんなことないと思うが」


 確かに綾音は俺と仲がいいが、それは中学からの同級生だからだ。別にアイツは他の男子と全く話さないわけじゃないし。


「表面上は繕ってるけど、明らかに君といるときと対応が違うよ。最も、男子たちは話してもらえるだけでニッコニコで本当に面白いよ」


 薬師寺はそういって悪い笑みを浮かべる。こいつ、やっぱ性格悪いわ。皆騙されてるよ!


「あいつはモテるからなぁ」

「君が嫉妬されて友達ができなくなるくらいはね」

「うるせ」


 うちのクラスはエリートぞろいなので、皆プライドが高い。そのせいか、結構嫉妬されやすいんだよなぁ。

 なんなら、合同訓練で組んだCクラスやDクラスの奴の方が仲良くしてくれてたような気がする。


「まぁ、理由はそれだけじゃないと思うけど」

「は?」

「いや、なんでもないよ」


 笑ってごまかす薬師寺。ボソッと言ったつもりなんだろうが、尚早と俺は難聴系主人公じゃないのでしっかりと聞き取れてしまった。

 え、他にも原因があるの?すげぇ気になるんだが。


「まぁ、困ったときは俺を頼ってくれよ」


 そういってニカっと笑う薬師寺。やはりこう見ると顔立ちは整っている。ザ・正統派イケメンって感じだ。だがな……


「今更良いやつぶっても無駄だぞ」

「……」



 これが、俺と残念イケメン――薬師寺快斗やくしじかいとの最初の出会いだった。





 




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