第3話 戦闘訓練

 HRが終わると、普通の高校のように授業が始まる。

 転生したら勉強は無双できるとか思ってる奴に言いたいことがある。


 それは最初だけの話だ。


 俺も小学生の頃は、勉強なんかよゆーだな(笑)とか思っていた。

 しかししかし、高校一年生の俺の学力は精々平均よりは良いという程度。

 別に転生したからって地頭が良くなるわけじゃない。結局大事なのは、転生前の後悔を忘れずにたくさん勉強することなのだろう。これから転生するかもしれない君達、よく覚えておくといい。


 俺の場合、むしろ転生後から学んでいるはずの魔法学のほうがテストの点数がいいくらいだからな。やはり好きなことは記憶に定着しやすい。


 いつも通りボーっと授業をこなし、気が付いたら5限が終わっていた。

 そういや、今日の6限は戦闘訓練だっけ。まあ、眠くならないだけまだ楽か。


 更衣室で専用のジャージに着替え、馬鹿みたいに広いグラウンドに出る。入学して一か月ほど経つが、未だに慣れないものだ。


 授業が始まると、先生はユニークスキル【二人一組ボッチ殺し】を発動した。世界が変わっても、この忌々しい風習は無くなってなんかいなかった。


 俺は視線を綾音の方に向けるが、彼女は既にクラスの女子に誘われてペアを組んでいた。

 俺の視線に気づくと、少し申し訳なさそうに舌を出しウィンクした。いわゆるてへぺろ☆って奴だ。可愛いから許す。


 さて、どうしたものか。

 俺はなぜかクラスの男子に嫌われている。いや、理由にはめちゃくちゃ心当たりがあるけども。

 故に、男子の友達がいないのだ。前世はそんなことなかったんだけどなぁ。


「今野」

「ん?」


 声がした方に振り向くと、そこにはクラス1のイケメンの奴がいた。直接話したことは無いが、いつも女子に囲まれているので印象に残っている。名前は確か……


薬師寺やくしじ……だっけ?」

「ああ、良かったらペア組まないか?」

「……え?」


 なんで俺と?いや、ペアいなかったから助かるけども。


「ダメか?」

「いや、むしろこちらからお願いしたいくらいなんだが……その、大丈夫なのか?」


 さっきから薬師寺と組みたがってるであろう女子たちからの視線が怖いんだが。

 俺の視線から何を言いたいのか理解したのか、薬師寺は爽やかに答えた。


「あー、大丈夫。その辺は俺が上手くフォローしておくから」

「はぁ、ならよろしく頼む」


 こうして、予想外の誘いによって俺のペアが決まったのだった。






 周囲の女子たちがいなくなってから、俺は薬師寺に尋ねた。


「なぁ」

「ん?」

「なんで俺と組もうと思ったんだ?」

「なんだそんなことか。単に他に組める男子がいなかっただけだぞ」

「女子とは組まないのか?」


 俺がそういうと、突然薬師寺の雰囲気が変わる。少し考えるそぶりを見せてから、俺の質問に答えた。


「その、女子と組むと……カッコつけないといけなくなるからな」

「は?」

「ほら、俺ってイケメンだから、女子にカッコいいと思われてるわけだろ?」

「お、おう。そうだな」


 なんかコイツ、思ってた感じと違うな。イケメンなのは事実だが、普通自分で言うか?


「昔からの癖でさ、そのカッコいいイメージを崩したくないって思っちゃうんだ」

「う、うん?」


 なんとなく言いたいことは理解できるが……まあ、イケメンにもイケメンなりの苦労があるのだろう。


「そのせいか、クラスの女子相手だと戦いがイマイチ楽しめないんだ。勿論、手加減しなくちゃいけないってのも含めてね」

「まあ、その気持ちは分からんでもないな」


 まあ、俺も中学の最初の頃は綾音と戦う時少し気負っていた気がしなくもない。今はそんなこと無くなったが。


「あと、単純に君と戦ってみたかったっていうのもある。中々特殊なユニークスキルを持ってるみたいだしね」

「まあ、どちらかというとマイナーな方だとは思うが」


実は、ユニークスキルは必ずしも固有のものじゃない。同じスキルや似たようなスキルを持っている人は結構いる。

俺は同じユニークスキルを持っている人と会ったことがないので、割とレアの方なのかもしれない。


「まあ、男子に嫌われてる者同士仲良くやろうじゃないか」

「不本意ながらな」


 グラウンドの空いているスペースに移動し、5メートルほど距離を取って向かい合う。

 使う武器は俺が木刀、薬師寺が木剣だ。といっても、魔法中心の戦いになると思うが。

 俺は土属性魔法で手のひらサイズの石ころを生成する。


「じゃ、俺がこの石を投げるから、それが地面に着いたらスタートってことで。それまでに何か仕組むのもなしな」

「OK」


 思えば久しぶりの対人戦だな。ぶっちゃけこの世界って、異世界ラノベの世界と違ってそこまで人間と戦う機会がないからな。別に敵でも何でもないし。


 石ころを左手で適当に上に投げる。

 俺は反射神経にあまり自信がないので、特に奇襲を仕掛けたりする気はない。

 

 この世界には、ゲームのようなステータスが見えるシステムがあるわけじゃないので、戦わないと相手の強さが分からない。

 冒険者や魔物ならランクである程度分かるが、それはあくまで目安だ。

 なので、俺は基本的に最初は様子見から始める。


 石ころはなにかに邪魔されることもなく地面まで真っすぐに落ちていく。

 まだ……まだ……今だな。


 石が地面に落ちたのを確認したらすぐに『身体強化』の魔法をかける。

 薬師寺の方を見ると……すでに木剣を抜きこちらへ向かってくる。すでに距離は2メートルほど詰められている。速いな。


 とりあえずこちらも木刀を抜き、攻撃を受け止めることにする。避けてもいいが、まずは相手の力を図りたい。


 カン!と木同士がぶつかる音が鳴る。そのまま力業で押そうとするが……


 こいつ……なんか力強くね!?

 なんとか受け止めて耐えれてはいるが、これはマズい。何がマズいかって、これ以上押すと刀が折れそうだ。

 この木刀、普通の木刀より丈夫にできてるはずなんだけどなあ。


 仕方なく受け流すことにする。ついでに流れで距離を取る。

 普段硬い刀ばっか使ってるから受け流すのはそこまで得意ではないのだが、なんとか成功した。こりゃもうちょっと練習した方がいいか?

 というか……


「お前、普段手抜いてるな?」

「相手が弱くて全力を出せてないだけさ。それに、それは君もだろう?」

 

 俺達A組の生徒は皆強く、高校生にしてすでにDランクからCランクの冒険者に匹敵する実力を持っている。

 だがコイツのレベルはそんなもんじゃない。何かあるな。

 

 突然、薬師寺は手に持っていた木剣を投げ捨てた。

 なんの真似だ?……なるほど、そういうことか。

 俺も同じように木刀を投げ捨てる。


「お、やはり分かるのか」

「あんなのじゃ俺らの全力に耐えられないから、全力を出せなくて面白くない、だろ」

「ああ、だからここからはお互い魔法のみで行こう」


 そこからが、本当の戦いの始まりだった。

 


 









 

 

 


 


 









 



 

 


 


 


 


 

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