第4話 ウワサバナシ 2
外野に出てから特にこれということもなく、遥率いるチームが競り勝った。遥がいるのだから圧勝するだろうなんて思っていたが、彼は彼なりに罪悪感を感じたようで、率先して味方のサポートに回っていた。
「大丈夫だったか?まだ鼻にティッシュ詰め込んでるみてぇだけど」
「まぁ、大丈夫だと思うよ。ほら、もう血止まってる」
「お、おぉ。別に見せろって言ったわけじゃねぇんだけど」
「あ、まだ止まってなかったわ。やっぱり許さん」
こんなことを言っているけど、間延びしたこの時間が心地いい。肩から荷が下りたような安堵感もある。
しかめっ面をして申し訳無さそうな顔をする遥を見るのが楽しいわけじゃない。いや、やっぱり嘘かも。遥のあんな顔を見るのは楽しい。
「やっぱり保健室行ってくる。次の授業面倒くさいし」
「そういえば英語嫌いだったもんな。んじゃあ、俺から先生に行っとくぜ。これでチャラだかんな?」
「え?なんか言ったー?よく聞こえない」
「あんにゃろ、うまく立場使いやがって」
遥に背を向け保健室に向かった。
授業終了のチャイムが僕の足取りに花を添えた。
保健室の前の廊下には異様なほどポスターが張り出されている。
リュックは重すぎてはいけないとか、ブルーライトがなんとか、とにかく色々な種類のポスターがある。色の褪せ具合とかくたびれ方を見る限り、4,5年は前のものだと思う。新しいのにすればいいのに、と思ったが新しくしたところで誰も見ないよなと思い、すぐに自分の最初の考えを忘れた。
僕は保健室にあまり行かない。単に怪我をあんまりしないし、もし怪我をしても放って置くような性格だから。最後に保健室に行ったのは歯科検診とか内科検診とか、みんなが同時に入るようなタイミングだった気がする。だからか少し胸の高まりがある。
「失礼します。先生いますかー?」
教室よりちょっぴり小さい保健室全体に聞こえるような声で呼ぶと、すたすたと先生がきた。
「どうしたの...って聞こうと思ったけど、流石に見たら分かるね。ちょっとそこの椅子に座ってな」
保健室の保科先生。ハーフアップで身長の高い先生だ。それに綺麗な人だから、引く手あまたなのは間違いない。最低でもこの学校ではファンクラブ的なのがある。
保健室の先生といったら、朗らかで、優しくて、包容力があるというか安心できる先生を思い浮かべると思う。でもこの保科先生は少し違う。うまく言葉にできないけど、先生と話せばなんとなく分かると思う。その意外性が人気の理由なのかもしれない。
「はい、これ鼻に詰めて」
「...はい」
「よし。そしたら鼻の先をつまんでおいて。まぁ、5分くらいで十分だと思う」
「...はい」
「あと、この用紙に記入しといて。見ればわかるから」
「...はい」
処置がとてもはやい。それに加え、用紙もきれいに準備されている。もちろんボーペンも。
鼻をつまむ手を左手にかえ、用紙に書き込み始めると、先生は悪いことでも思いついたかのような顔つきで話し始めた。
「ねぇねぇ。もしかしてサボり?」
「...サボってるつもりはないんですけど」
「いやいや、別にサボりを否定してるわけじゃない。先生だっていつも生徒が来ないときはサボってるみたいなもんだし」
「それを先生が言ったらただの職務怠慢ですよ...」
「ふふっ。冗談だって冗談。誰も来ないから話し相手いないし、でも誰も来ないっていうのは悪いことではないし。先生の中でも葛藤はあるんだよ?だからこの授業はサボって、先生の話に付き合ってくれない?」
「...鼻血ごときで丸一時間保健室にいる言い訳が思いつかないのでやめときます」
「そこんとこは安心しときな。なんとかするさ」
半強制的に先生の話し相手にされた。めんどくさいし、話し相手になれるような人ではないと思う。でも授業をサボれるなら...悪くはない。
「...わかりました。いい話し相手になれるかわからないですけど」
「大丈夫だとも。話したいことは先生のことじゃない。あなた、千秋くんのことだからね」
「え?」
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