恋する壮太

壮太は砂浜での仕事の翌日、朝美に呼び出された。

場所はつい4時間ほど前までいたミステリーサークルのある砂浜だった。

ほとんど寝ていないため正直な所断ろうかと思ったが、朝美の可愛らしさに負けて行くことに決めた。


「あら、星野さん眠たそうね」

「まあ、昨日遅くまで遊んでたんで」

眠い目を擦りながら、壮太は朝美を見た。

眠さは朝美を見た瞬間吹き飛んだ。

「もしかして、元気なおじ様たちと遊んでたのかしら」

「まあ、あの二人もいましたね。同じ居酒屋に」

適当に誤魔化したが、彼女への気持ちは誤魔化せない。

なんだか、気分が浮かれてきてしまった。

「星野さんはこのミステリーサークルどう思う。久しぶりに本家が帰って来たって感じよね。やっぱりイタズラとは違うわ」

「星野って呼ぶのはやめてください。壮太でいいですよ」

壮太はカッコつけて言った。もともと、壮太は高校時代そこそこモテてた。

「じゃあ、壮太さん。なんであなたたちは昨日もこの付近で目撃されてるのかしら」

壮太は目が飛び出るほど驚いた。

「もしかして、また聞き込みしたんすか」

「壮太さん。私にも敬語はやめていいのよ。そう、この周辺を聞き込みしたの。見慣れない車を見たって言うの話と、女性もいたって言う話も聞けたわ」

朝美、なんて怖い女。と思うと同時にそんな活動的な姿にドキドキしたのも事実だ。

「そっか、まあ。それだけじゃ俺たちとは断定出来ないね。女性もいたんだろ。俺たちはいつも三人だよ」

力を振り絞って発言する壮太。

「ふーん。そう言うならいいわ。壮太さん、ランチにしましょう」

「よろこんで!」

壮太は自分が怪しまれてると知りながら、朝美に好意を持ってしまった。



「勇さん、今日はどうしてこんな所に連れてきたの」

弥生が驚くのも無理はない。勇と弥生は久しぶりに余所行きの服を着て、大都会東京にいるのだ。

「俺に出来る罪滅ぼしだ。農家をしてる時、弥生をほっときすぎた。こんな歳になって不思議だが、デートしてくれないか」

こう言うのは映画に出ているスターが言ったらもっと輝くのだろう。

しかし、今の勇にはスラリと言えてしまった。

そして、弥生も嬉しそうに「はい」と言うと、勇の手を取った。

それからは夢のようだった。

映画を見て、ショッピングをして、弥生のために家具まで買った。

もちろん、UOからの報酬を使ってだ。

UOからの依頼が貰えたことは偶然だが、報酬を貰えたことは勇の頑張りに対してだ。

妻に恩返しするのは当然だ。

逆に、今まで作ってくれた食事に対して「ありがとう」の一言も言えたことがないと思い返した。

若い時は弥生の美しさに恥ずかしくなってしまい「ありがとう」といえなかった。

仕事が忙しくなると、そんな余裕もなかった。

50を過ぎると、「ありがとう」ということにすら恥じらいを持ってしまった。

そして、今。

不思議な仕事を与えられ、生きがいを取り戻した今なら言える。

「弥生。いつもありがとうな」

「なに、勇さん。突然」

「言って見たくなっただけだ。ほら、これはプレゼント」

勇は弥生が家具を選んでいる間に近くの宝石店で、ネックレスを買ったのだ。

それを弥生の首にかける。細く、白い首だ。

「まあ、ありがとう。勇さん」

大都会の夜景はふたりを祝福しているようだった。

なんの記念日でもない、いや。記念日など忘れてしまった勇は祝福を全身で受けた。



それからいくつかの依頼をこなした。

弥生は必ずついて来て、見張りと時にはミステリーサークルの細部について第三者の視点でアドバイスもくれた。

弥生も輝きを取り戻しているようだ。

それに引き換え壮太は元気がなかった。時々、空を見上げると小さくため息をつき。

「僕って、あの月のように光れているんですかね」とポエムとも言えない不思議な言葉を呟いた。

「おいおい、疲れているか。休みたければ休めよ。その分の報酬はなしだがな」

信作は笑いながらそんな事を言う。


「壮太くんのあれ、きっと恋よ」

家に帰ると弥生がそんな事を言った。弥生はまるで学生のように、茶目っ気のある笑顔を見せた。

「恋って、誰とだ」

まるで息子のように思っている壮太に想い人がいると思うと少し敏感に反応してしまう勇であった。

「相手は知らないけど、あれを恋と呼ばなければ魔法か呪いね」

弥生は楽しそうに言うと、寝室に消えた。

翌朝。UOからの依頼が届いた。

依頼から依頼の期間がかなり短くなっていると感じた。

すぐに、信作と打ち合わせをして。壮太に連絡もした。



「壮太さん。こっちよ」

「待ってくれ、朝美さん!」

ふたりはなぜが、森を走っている。

壮太にも理由はよく分からない。

今日はここに呼ばれたのだ。

「ここよ。壮太さん」

「あれ。ここって見たことあるような」

「そう。森のミステリーサークルよ。今は消えちゃってるんだけど、このサークルを見つけたのは、月島さんと大黒さんよね。警察や私たちマニアが到着するより早く、もうひとつの足跡があったらしいの」

急に現実の世界に引き戻されて壮太はクラクラした。

確かに、勇と信作が見つけた事になっているが、壮太も現場にいたのだ。まさかその足跡が問題視されてるとは思わなかった。

「足跡か。それがどうかしたかい」

すると、朝美は壮太の走ってきた道を少しだけ引き返した。

「27cmちょうど。模様もほとんど一致してる」

地面にしゃがんだ朝美は壮太の足跡の大きさを測っていた。

「やっぱり。壮太さんもいたのね」

朝美は何もいえなくなった壮太に近づいた。

すると、つま先立ちになり壮太の耳元に顔を近づけた。

「全て教えて」

彼女の囁きに、壮太は全身が震えた。

「教えたら、どうなる」

震える声で、壮太が聞き返す。

「あなたは特別な存在になれる」


気がつくと壮太と朝美はカフェに座っていた。

「俺は実は、朝美が好きな宇宙人とかそういう系の声が聞こえる事があるんだ。聞こえると言うより、通信を盗み聞きしてるって感じかな。それで、いつどこに未確認飛行物体が着陸するか分かるんだよ」

壮太は自分でもありえない嘘をついた。

朝美の気を引きたいその一心だ。

「すごい!それで、毎回現場に居合わせられるのね」

「そういうことになる」

「じゃあ、次は分かってるの」

壮太は先日、勇と信作と確認した時間とずらせば問題ないと思い、場所とミステリーサークル制作時間を加味した時間を伝えた。

「やっぱり。壮太さんってすごいのね」

その後、朝美はいつもより饒舌になり、ミステリーサークルのあれこれや宇宙人のあれこれを教えてくれた。

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