突きつけられた証拠
信作はさらに困っていた。
有名な物理学者の大学教授が取材に来ると聞いたので楽しみにしていたのに、信作の前に突きつけられているのは、トウモロコシ畑で落としてしまったお守りだった。
「下槻さん。なんでこれをお持ちで」
「大黒さん。隠しても無駄ですよ。プラズマ発生装置をお持ちじゃないんですか。それでミステリーサークルを作っているのではないですか」
プラズマ。それについて全く分からなかったが、ミステリーサークル制作について知られるのはまずいと思った。
「ミステリーサークルにプラズマ。よく分かりませんな。このお守りだってだいぶ前に失くしたんですよ。偶然ミステリーサークル内で見つかるなんて、宇宙人の仕業ですかね」
信作は笑いながら誤魔化したが、正彦は真剣だった。
「おかしなことを言わないで下さい。このお守りをこの村の神社で購入されたのは三人だけ。大黒さん以外の二人はちゃんと所持していました。あなたのに違いないんですよ」
なんと、そんな事も調べたのか。大黒は彼の探偵のような能力に関心した。
しかし、まずい。どう言い訳すべきか。
「歳をとってボケ始めましたがね。確かにあのトウモロコシ畑に行ったような気がします。もちろん、元農家としてね。酪農用のトウモロコシについて調べたんですよ。その時落としたのかもしれませんな」
正彦の視線は鋭く刺さる。
「今日のところはあまり聞きませんよ。とにかく大黒さんがミステリーサークル作りに何らかの形で関与してるのは確かです。おそらくプラズマだと思いますが。今日のところは失礼します」
正彦は帰った。しかし、信作は怯えていた。
すぐに勇と壮太に集まるように連絡した。
信作から連絡が来る少し前。
壮太は勇トウモロコシ別れて家に帰ろうとしていた。
「ねえ!星野さん」
後ろから声をかけて来たのは朝美だった。
「なんすか。もうやめてくださいよ」
壮太は拒否したが内心嬉しかった。
朝美の愛嬌に心を奪われていた。
「星野さんとは、ミステリーサークルとか関係なしに仲良くなりたいと思って、連絡先教えてくださいくれませんか」
唐突に言われて驚く壮太。
少し迷ったが
ミステリーサークルのことは話さなければ大丈夫なはずだ。
「まあ、いいですけど」
こうして壮太は朝美に連絡先を教えた。
冬がやってきた。
UOからの仕事も減った。
あまりのブームのため本物が目立たなくなるのを考慮したのだろうか、冬の仕事は一件だけ。雪山にミステリーサークルを作った。
寒かったし、遭難しかけたが完成作品は自他ともに認める最高傑作だった。
寒い中頑張ったので疲労もいつもより大きかった。
信作はいつもより多めに写真を撮っていた。
翌年の1990年。その年初めの仕事は、3月だった。
日曜の夕方。他県の砂浜に行くために家を出ようとした。
弥生には、大黒と飲みに行くと言うのが恒例になっており、今日もそう言うつもりだった。
「弥生。今日も大黒と飲みに行ってくる。遅くなるかもしれないからよろしく」
いつもなら、行ってらっしゃいと送り出す弥生だが今日は違かった。
「勇さん。いったい何をしてるんですか。時々日曜の夜になるとふらっと消えて。次の日の朝まで帰らないこともあるし。その週はずっとぐったりしてるじゃないですか」
いよいよ問い詰められてしまった。
「しょうがないだろ。大黒は大酒飲みで、いつもついつい飲みすぎてしまうんだ。それに、彼のお得意の店はどこも遠くて結構歩くんだよ」
「今、嘘つきましたよね」
勇は思わず驚きが顔に出た。なぜわかったのだろうか。
「勇さんは嘘をつくとき、視線が斜め上に動くんです。私は知ってるわ」
たとえそれがはったりだったとしても、弥生はとにかく真実を求めているようだ。
「嘘はついた。それはすまない」
「じゃあ、どこに行くの」
「それは、言えない。仕事なんだ」
「そんなに大切な、私にも言えない内容なの」
弥生の表情に勇は何も言えなくなった。
「すまない。じゃあついてきてくれ。その代わり絶対に他言無用だからな」
「ええ。勇さんに従うわ」
そうして、勇は信作と壮太との待ち合わせ場所に向かった。
勇と弥生は何も喋らなかった。
勇は自分がこれまでついてきた嘘に対して罪悪感があり。弥生は、今日に限って問い詰めた事に少し罪悪感があった。
「おお!弥生さんじゃないか。今日はどうした」
信作はできるだけ平然を装って話した。
隣で壮太も頭を下げる。二人とも困惑している。
「すまない。信作、壮太くん。妻を現場に連れて行ってくれないか。もちろん誰にも喋らせない。だから頼む」
勇は二人に頭を下げた。まだ、誰もミステリーサークル制作とは言わない。
「なんとなく察したよ。弥生さん、これからする事を見たら驚くぜ」
信作は楽しそうに了解した。
「勇さんの奥さんですよね。俺、近所でとび職やってる星野壮太って言います。よろしくお願いします。それにしても美人だなぁ」
壮太もお世辞をいいながら挨拶をする。
そんなわけで、四人となった一行は他県の指定された砂浜に夜のドライブを開始した。
最近はイタズラのミステリーサークルも減少していた。
そんな状況で久しぶりに依頼されたのが今回の仕事だ。
弥生は近くの車に残し、とりあえず周囲に人がいないか見ていてくれ。と言って三人はいつものように作業を開始した。
弥生はその様子を食い入るように見ていた。夫は農家時代のようにイキイキと砂を掘り、模様を描く。
信作も、指示を出し走り回る。
壮太の仕事ぶりを見ていると、とび職ではなくこちらが本業にすら思えてきた。
1時間ほどで作業を終えると、三人は車内に戻ってきた。
「弥生。これが今まで隠していたことの全てだ。分かってくれたかい。嘘をついていた事はすまない。今の俺はこれが楽しくて仕方ないんだ」
「もちろん分かったわ。あなたが世間を騒がせてるミステリーサークルの製作者だったなんて」
そういうと、少し涙ぐんだ。勇はそんなにすごい事ではないのに、と思い思わず笑みがこぼれた。
「素晴らしいミステリーサークルね。完成おめでとう」
弥生も笑顔になって、喜んだ。
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