模倣犯
正彦はトウモロコシ畑に出来たミステリーサークルの情報を得るとすぐに、土地の所有者に調査の依頼をした。
普通なら断られるだろうが、大学教授と研究者という肩書きを使えば意外と簡単だった。
今回のサークルには焼け跡はなかった。
しかし、なぎ倒されたトウモロコシの葉や茎に部分的に焦げていた。
「やはりプラズマだな」
正彦は昨日の気象情報について気象庁に連絡をとろうと考えトウモロコシ畑から抜け出そうとした。
その時、足元に赤いお守りを発見した。
比較的新しく、なおかつ神社の名前はこの県にあるものでは無かった。
調べると驚きの事実が判明した。
なんとその神社は初めのミステリーサークルの発見された村の神社だったのだ。
正彦はプラズマ発生に人間が関わっている説。そして、特殊な機械を持っていると推測して、後日その村を訪ねようと決めた。
朝美はトウモロコシ畑に到着するのが正彦よりかなり遅れた。
昨日は夜まで友達と遊んでおり、寝坊したのだ。
現場に正彦がいたらまた論争を繰り広げようと思っていたが、正彦には意外な形ですれ違った。
最寄りの駅で何やらニコニコしながら帰りの電車に乗り込んだいたのだ。
朝美はまた重大な証拠を正彦に掴まれたと思うと苛立ちを隠せず、ミステリーサークルを確認した後、聞き込みを行った。
「ミステリーサークルマニアです。昨日の夜、不審なことはありませんでしたか」
と言うように、とにかく話を聞いた。
普通なら、こんな質問を急にされたら怖がるだろう、しかし朝美は自分の愛嬌に自信があった。
正直な所、自分は可愛いと意識していた。
女性には冷たい態度を取られることもあったが、男性はミステリーサークルに関することも、そうでないプライベートな事もなんでも話してくれた。
その中でふたつ、有力な目撃情報があった。
まずは、老人ふたりと若者ひとりがトウモロコシ畑付近から車で出発したという。
しかも、その車は他県のナンバーでその県は初めのミステリーサークルが発見された村のある県だった。
そして、次の情報はその車に関係する情報だった。
ミニバンタイプであり、車体の側面には「大黒建設」と書かれていたらしい。
朝美はその二つの情報から、マスコミや第一発見者よりも前にこのトウモロコシ畑で何かをしている三人組がいると断定して、大黒建設と初めのミステリーサークルの情報を照らし合わせることにした。
そして、後日、大黒建設と初めのミステリーサークルが発見された村に向かう事にした。
勇は特に代わり映えのしない生活を送っていた。
UOからの報酬は銀行口座に溜まっている。今は使う気にならなかった。
甥に農作業用のトラクターを買うにも時期が遅い気がした。
「勇さん。またミステリーサークルですって」
弥生の言葉に驚いた。今日は木曜日。依頼も来ていない。
すぐに、弥生の見ているニュース番組を見た。
しかし、落胆した。写真や映像に映るミステリーサークルは勇に言わせればただの円だ。
しかも、田んぼを踏み荒らして侵入し、人間が足で踏みつけているだけ、美学も芸術性も微塵も感じさせた無いものだった。
つまり贋作である。
「でも、いつものミステリーサークルよりクオリティが低いわね」
弥生のその言葉に思わず大きく頷いた。
「ほんとだな、この程度でミステリーサークルを名乗るとは。子供のイタズラだろ」
いつもより辛辣な表現でテレビを罵ると、勇は外に出た。
しかし、それからが大変だった。
全国各地に贋作が大量出現したのだ。
どれも低クオリティであり、田んぼや畑に作られたものに関しては単純に農家の迷惑だった。
これは社会問題になり、人々の関心は高まった。
毎朝どこかのテレビで評論家が、稲作農家に対する無礼だとか、海外のミステリーサークルに習ったアートだとか、言うようになった。
さらに、日本で最初のミステリサークル発見の地として勇の村が取り上げられて、大黒は何故か毎回楽しそうにインタビューに答えていた。
目立ちたがり屋なので仕方ないが。
しかし、基本的にイタズラレベルのミステリサークルはすぐに見破られた。
ミステリーサークルマニア俗に言うセレオロジスト達が独自に操作し、学生や時には地域の婦人会など、意外な人物が暴かれ。
理由は目立ちたかったとか、地域の活気を取り戻すためだとか色々だった。
ちなみに、偽ミステリーサークルを暴いているのが下槻正彦と丹波朝美だということは勇たちは知らない。
さて、朝美は偽ミステリーサークルを暴く事に忙しかったためかなり日にちが経ってから大黒建設を訪れた。
もちろん、トウモロコシ畑の近くで大黒建設の車が目撃された事について聞くためだ。
会社に突撃すると、大黒信作に突撃した。
「すみません!トウモロコシ畑のミステリーサークル付近で大黒建設の車が目撃されているんですけど、大黒さん何か目撃しませんでしたか」
信作は突然若い娘がミステリーサークル制作についての情報をぶつけて来たのだ。かなり動揺してしまった。
「なんだ。うちの会社の車がそんなところにおかしいな」
「しかも、ご年配の方がふたり、若い方がひとり乗っていたと言う話も聞きました」
そんな事まで知られているとは、行っていないとは言い訳は出来なさそうだ。
「確かに、そんなところにに行った気もするような気がするな。とにかく俺は面会者がいるから、聞くなら同乗してた月島勇と星野壮太ってやつに聞いてくれ」
大黒はそういうと有名学者との面会に備えた。
「そういうわけで、月島勇さんと星野壮太さんのお話を伺いに来ました」
勇は困っていた。偶然、壮太と話している時に丹波朝美という学生に捕まってしまった。
しかもら話を聞いた限りでは、信作はトウモロコシ畑の件についてかなり話してしまったようだ。
「話と言っても、ミステリーサークルに関係する事は特にないな。だよな壮太くん」
勇は芝居がかった口調で言う。
「そうですね。偶然あそこにいたとしか言えませんね」
壮太は顔を赤らめながらなんとか答えた。
「じゃあなんで他県で、しかも深夜にいたのか教えてください」
朝美は攻勢をやめない。
「そりゃ、元農家だから引退しても勉強というか、そんな感じだよ」
「じゃあ星野さんはどうですか。とび職をしているんでしょう。なぜ農家の手伝いをされてるんですか」
「それは、最近信作さんと勇さんにあって。まあ、将来は農家もいいかなーって思って」
壮太は苦しい言い訳をした。
朝美はずっとふたりを睨んでいたが、とりあえず逃げることが出来た。
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