サークル・クラフトマン
その後も期間はまちまちだが、UOからの依頼が届いた。
一度目が低評価では無かったらしい。仕事の内容はどんどん難しくなり、高度な形状であったり、大規模であったり、時に場所を指定されたことまであった。
大規模のミステリーサークルを制作する時は、壮太を仲間に入れて良かったと思った。
彼は20歳をわずかに超えた年齢であり非常に体力もあった。
時に見張り役、時に器具の運搬など非常に役にたった。
当初の壮太の報酬はUOから勇と信作がそれぞれ貰える100万円から10万円を引いた20万円だった。
しかし、それだけでは足りない程の働きだったため、今はそれそれ20万円の40万円を報酬としている。
壮太はもちろん秘密を漏らさず。日曜以外はとび職にも精を出していた。
「今日は場所の指定があったんですか」
壮太が勇に確認する。それは無理もない。
ここは小学校の校庭だからだ。
「ああ、UOさんからの指定だよ。話題になりそうだな」
この前、有名な観光名所の砂浜にサークルを作った。
最近は、森や畑もあり、特に森でのミステリーサークル制作は非常に疲れた。そして翌日に発見して貰う方法を探したが見当たらなかったため。
勇と信作が第一発見者になった。自作自演はあまり気が進まなかったが、信作は目立ちたがり屋なので喜んでいた。
「今日のサークルはでかくて、なおかつ複雑ですよね」
「そうだな。一番幅のあるところで100mはある。朝までに終わらせるぞ」
「了解です!」
すると壮太は荷物を持って所定の位置に目印を立てている信作の方に向かって走った。
四時間はかかっただろうか。
そろそろ夜も明ける時間にサークルは完成した。
また家に帰って弥生に言い訳しなければならないと考えると少し頭が痛い。
「信作、また写真か早く帰るぞ」
勇の呼び掛けに大きく手を振って答える信作。
彼は初めの田んぼから全て写真を残している。家族にバレなければいいと思った。
にしても、勇は労金を大幅に上回る大金を毎月得ている。
弥生や農家を継いでくれた甥には何らかの恩返しをしなければと思った。
「下槻さん。また会いましたね」
朝美は小学校の校庭に出来たという新ミステリーサークルについて情報を得て飛んできた。そこで、正彦に会った。
サークルあるとこに下槻ありと言った所だろう。逆もしかり、朝美も正彦にそう思われているだろう。
「丹波さん。これでサークルも六個目ですね。いまだに未確認飛行物体説を提唱しているんですか」
「下槻さん。私も一研究者です。いろいろ調べてきましたよ」
すると朝美はノートを取り出しページをめくりはじめた。
「まず、二つ目のミステリーサークルですが、田んぼにありましたね。そこには放射線と特殊な金属が回収されたとありますが下槻教授はどうお考えですか」
もちろん、正彦もその情報は得ていた。それに反論も考えていた。
「簡単だね。プラズマの発生に隕石が関係する事もあるんだ。その隕石と金属説明がつくよ」
朝美はやや強引だと思ったが続きの調査結果を話し始めた。
「次です。以前の砂浜のミステリーサークルが発見された月曜日の夕方から翌朝にかけて、沢山の魚の死骸と貝や浜辺の生き物の死骸が発見されたことはどう説明しますか」
「プラズマって言うのはね、電気に近い性質がある。ましてや塩分濃度が高い海があったとすれば、話しは簡単。感電死したんだよ魚たちは」
正彦は得意げに顎を撫でながらいう。
朝美はまたしても強引な理論に対して、二つのサークルでの事案についてぶつける事にした。
「砂浜では感電死ですか。では森と畑のミステリーサークルについてです。森でも畑でも翌朝、家畜の牛、豚、鶏が消えていたということが起きました。これは宇宙人によるアブダクションに違いありません!」
確かに、外国では宇宙人に誘拐されて手術を施されたとか、家畜がさらわれたとかそういう話はよくある。
しかし、それに対する反論を正彦は持っていた。
「丹波さんはあの森と畑のある地域で今年のクマや猿やたぬきなどの獣害が多いことをご存知ですか。それは偶然サークル発見時に起きた別の獣害にすぎません。考えすぎですよ」
朝美は悔しそうな顔をした。しかし、セレオロジストの誇りにかけて引けなかった。
「血の跡を残さずですか、変でしょう!」
「それは新聞屋が面白く書いたんだろう。それより、あれを見てくれ」
正彦は自信満々に校庭の中心を指さした。
そこには、焼けた跡があった。焚き火をしたにしては範囲が広い。
それにわずかにくぼんでいる。
「あれはプラズマ発生の証拠になると思うがね」
「いいえ!あれこそ大気圏を突き抜けた未確認飛行物体が着陸した跡です!」
1歩も譲らない二人。その後も続いた激しい論争。
それは見る人によってはミステリーサークルよりも興味深かった。
後日。正彦は自分の研究室で新聞を読んでいた。
この前、ミステリーサークルを見に行った小学校の名前が目に止まった。
内容は、〇〇小学校周辺で行方不明事件が多発。といった物だ。
正彦は偶然だろうと決めつけて新聞を折りたたんだ。
「せっかくここまで育てたトウモロコシを倒すのは元農家として複雑な気分だな」
勇はトウモロコシを踏みつけながら言った。
日曜の夜。3人はUOからの司令で他県のトウモロコシ畑に来ていた。
ちなみに、食用ではなく家畜用のトウモロコシである。
そのため非常に背が高く、2m以上のトウモロコシが並んでいる。
「このサークル完成しても見つけられて貰えないんじゃないですか」
壮太もトウモロコシを倒し、踏みつけながら言う。
「確かにな、運良く高台とかヘリコプターから見つけてくれないとな」
信作は出来上がった所から杭を抜いている。
勇と信作は商売敵とは思えないほどのチームワークを発揮し、壮太も仕事に慣れ大規模なサークルでも効率的に完成させることが出来るようになった。
「勇。まさに職人技だな」
サークルを完成させて片付けをしていると信作がサークルの撮影をしながらそんな事を言った。
「日本でミステリーサークルを専門に作ってるのは俺たちだけだ。職人いや、匠だね」
勇は自信満々で返答した。
「勇さん、信作さん。警察が巡回してます!早く車に!」
見張りをしていた壮太の呼びかけで素早く車に乗り込むと、現場を立ち去った。
「まずいな。お守りを落としたかもしれん」
村に向けて帰る途中、信作が呟いた。
「なんだ。安全祈願か交通安全か」
勇は適当に質問する。
「いや、村の神社の名前が入ってるお守りだ。サークル内にあったらまずいかもしれん」
「今から戻りますか」
壮太が確認する。しかし、小さなお守りをあのトウモロコシ畑から探すのは大変だ。
「いやいい。諦めよう」
信作は諦め。三人は多少の不安を抱えて村に帰った。
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