目撃者と巻き起こる論争
勇は朝起きてすぐに村の異変を感じた。
まず、田んぼを管理している甥から電話があった。
田んぼで大変なものが見つかった。マスコミや野次馬がたくさん来て困ってる。
といった内容だったが、自分が作ったとは言えない。
真夜中の労働は身体に堪えた。
まだダラダラしていたかったが、甥が困っているなら仕方ない。勇はまるで何も知らない近所の老人を装って現場に向かった。
田んぼの周りには写真を撮る者、昼のテレビ番組の為に取材をするマスコミ、何やら研究対象としてミステリーサークルを観察する者、そしてそれらの人物の取材に対して得意げに対応する信作の姿があった。
「あいつ、余計なことを喋ってるんじゃないだろうな」
勇は流石に心配になり、信作をマスコミから引き剥がそうとした。
「みなさん!この田んぼの持ち主が来ましたよ」
信作は大声で言う。勇は汚職を働いた政治家のように無言で信作を連れ出した。
「何やっとる。目立ちすぎだろ」
「いいじゃないか。それより口座を見たか。50万しっかりあったぞ」
信作は銀行口座の確認まで済ませているようだ。つまり、イタズラなどではないと言う事である。
真剣にこの仕事を依頼しているUOは実在するということが証明された。
「50万円はどうでもいい。とにかく、甥が仕事にならないと怒ってる。野次馬を追い払ってくれよ」
勇は必死に訴えたが、信作の表情は変わった。
「待ってくれ勇。今朝の騒ぎが始まったて以降、商店が賑わってる。それに、近所の飯屋にもよそ者が溢れて大盛況らしい、つまりなこれは村の為にもなってるんだよ。今日くらいお祭り騒ぎでもいいだろ」
確かに、勇も田んぼに着くまでに賑わっている商店街を見た。
ミステリーサークルには経済的な効果があるということだろうか。
「分かった。しかし、バレたら全て終わりだぞ。よく覚えておけよ」
「俺がそんなヘマするわけないだろ」
信作はそう言い残すと、笑顔でマスコミのもとに戻った。
そうは言っても所詮は田んぼにできた不思議な円だ。
野次馬もすぐに冷めて帰ってしまった。
勇は田んぼの関係者として、野次馬が田んぼに立ち入らないように見張っており、信作は少しでも多くのマスコミにアピールしていた。
もう見ているのは5、6人しかいない。
勇と信作は帰ろうと思っていた。
その時青年に声をかけられた。
「あの。間違ってたら悪いんですけど、二人があれ作ったんすよね」
勇と信作に激震が走った。
「ちょっとこっちに来てくれ」
信作は素早く青年を人のいない場所に移動させた。
「君、どこの記者だい。詳しく聞かせてもらおうか」
信作は少し喧嘩腰だった。
勇がそれを制して、落ち着かせる。
「俺、星野壮太って言います。あの田んぼの横の建物でとび職をしてて、昨日の夜足場の上で寝てたら見えちゃったんです。ミステリーサークルを作ってるところ」
信作は明らかに動揺している。勇も混乱した、まさか見られていたとは。
「壮太くん。このこと誰かに言ったかい」
「いいえ。俺友達少ないんで、二人に話を聞くまでは黙ってる事にしてたんです」
「それなら良かった。いや、よくない!」
信作は主張を二転三転させた。勇は様々考えた上で発言した。
「考えたんだが、壮太くんを仲間に引き入れるのはどうだい。若くて体力もありそうだし、知られたからには俺たちの報酬を分けて喋らないようにしてもらうしかないだろ」
つまり、口止め料を払って協力者にするという事だ。
悪い青年でも無さそうだし、誰にもばらさなければ問題はないと考えた。
「そうだな。壮太くん君はどうだい」
信作が質問する。しかし、彼の考えはまとまっていたらしい。
「ええ。日曜の夜限定ですが、お手伝いしますよ」
そんなわけで、仕事の出来具合によって報酬は決めようと言うことに決まり。3人は解散した。
「日本のミステリーサークルでこんなに神秘的な物は初めて見ました。おじさんもミステリーサークルマニアですか」
大学のミステリー研究会。都市伝説や心霊、陰謀論に関するミステリーの方である。
そんな研究会に所属する丹波朝美はミステリーサークルマニアであり、俗に言う「セレオロジスト」だった。
しかし、この当時日本国内でミステリーサークルが発見される事はほぼなく、見つけたとしても基本的にイタズラだった。
しかし、朝美の目の前にあるサークルは本物と言っても過言では無い、つまり未確認飛行物体の着陸跡に見えた。
「私はミステリーサークルマニアでは無い。そしておじさんでも無い。下槻正彦だ。ちなみにお嬢さん、このサークルはプラズマ発生の痕跡で断じて未確認飛行物体は関係ないと私は明言するよ」
朝美に対して、意見を並べるのは大学教授で物理学の専門家である下槻正彦だ。
彼の研究分野はプラズマについて、こういったサークルはプラズマが原因だと信じている。
「なんだ。私たち分かり合えそうにないわね。ちなみに私はお嬢さんじゃなくて丹波朝美。宇宙人を信じないなんて下槻さんも夢がないのね」
正彦は最近の学生はなんでも心霊、超常現象などで片付けることにとても苛立っていた。
「あのね。丹波さん。確かにこの広い宇宙に生命体はいるかもしれない。しかし、もし高度な生命体がいるとしてなぜこんな跡を残す必要があるんだ。おかしいだろう」
学者の応戦に丹波も負けられなかった。
「それは、地球人に警鐘を鳴らしているんですよ。大気汚染や地球の温暖化。問題は山積みです。そんな地球人に対して解決策を教えるために自らの存在を誇示してるんですよ」
正彦はなんともお粗末な意見だと思いながらもさらに反論してしまった。
「まずね。この状況でプラズマ発生は説明がつくんだよ。この地形、そして近くの建物。昨夜の気象条件、それらを考慮すると…」
「下槻さん。プラズマが証明できても、宇宙人の仕業ではないことの証明も出来ませんよね」
正彦の講義に、朝美が割り込んだ。
その後も、二人の論争続いたがもちろん結論は出なかった。
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