第2話 努力は報われない3/5

 順位発表は問題なく進んでいく。

 35位でFoUrthフォースの向井香菜かなちゃんが呼ばれ、


「それでは、第21位の発表です。21位は……佐久間絵里!」


 え、まさか。こんな低い順位で呼ばれるなんて。

 唖然とする私をよそに、


「おおっ、おめでとう!」

 手を叩いて喜ぶ那海。

「全っ然嬉しくないわ」

 両手で顔を覆っても、目を閉じても、現実は変わらない。

 チーム分けで最高評価のoneチームに所属できた絵里ちゃんの頑張りは、審査員にも視聴者にも届かなかった。


 先週の放送で、参加者全員で番組のテーマ曲をパフォーマンスしたとき。

 最前列で、絵里ちゃんは向日葵みたいに明るい笑顔で、元気いっぱいに歌って踊ってくれていた。


 きっと心には審査員の言葉が突き刺さっていただろうに。

 彼女はいつもと変わらない……いや、いつも以上に明るくパフォーマンスをしてくれた。


 だから、私はそんな絵里ちゃんの頑張りを世間に広めたくて。動画を作ったり、鍵をかけていたSNSを公開して、彼女について呟きまくった。

 パフォーマンス動画をリツイートしまくった。


 でも、現実は優しくなかった。


 いつの間にか渇いていた手汗の代わりに、じわじわこみ上げてきた涙をこらえていたら、

「うーん。そうだねえ、あんまりいい順位とは言えないけどさ、前向きに考えようよ」

「……は?」

 さっきまで低いテンションだったくせに、明るい声で那海が言うもんだから、彼女の顔を睨みつけてしまった。

 視界の隅に映るのは、絵里ちゃんの泣きそうで、悔しそうな表情。


 ごめんね、絵里ちゃん。私たちの応援が足りないせいで悔しい思いをさせちゃったね。


「半分以上が落とされる中で生き残れたんだよ。それって、凄くいいことじゃん。厳しいことを言われたけど、これから頑張っていけばいいんじゃん」

 ニコっと笑った那海の表情に、不思議と心が軽くなった。

 そうだ。絵里ちゃんは生き残れたんだ。次のチャンスを与えられたことを、素直に喜ぶべきだ。

 脱落してしまった子たちのためにも。


「そうね」

 那海に励まされてしまったことがちょっぴり悔しくて、私は腕を組みながらTVに視線を戻した。


 その後も順調に順位発表は続き、FoUrthの安田りあちゃんは18位、6位に倉田れんちゃん、2位に清宮きよみや愛ちゃん。

 Magentaのグレースちゃんは10位、舞ちゃんは4位だった。リーダーの多江たえちゃんは、デビュー組で唯一脱落してしまった。


「あぁ……」

 順位に応じて再編されていくチームを眺めながら、泣きながらスタジオを去っていた多江ちゃんの顔が忘れられない。

 誰よりも責任感が強くて、最年長としてグループを引っ張ってきた彼女。

 辛すぎる。

 最悪よ、こんな番組。誰よ考えた人。

 大量の不幸と悲しみを生み出して、デビューできるのはたったの11人。


 たった一人推しグルのメンバーが脱落しただけなのに、心はどんどん暗くなっていく。

 この先も番組を観続けられる自信はない。


 なんて。

 絵里ちゃんが頑張り続ける限り、私は観るんでしょうけど。


 推しの頑張りを見守るのがオタクでしょ。

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