第2話 努力は報われない1/5

 今までTVに夢中だったのに、那海は私が座った途端こちらを振り返ってきた。

 なによ、さっきと同じようにオーディション観てなさいよ。


「涼ちゃんの推しは?」

 あら、それが聞きたかったのね。

「佐久間絵里えり

 今日参戦してきたライブの主役『Magentaマゼンタ』のメンバー。事務所箱推しの私ですが、推しグルはMagentaで、最推さいおしは絵里ちゃんなのです。


「貴女は?」

 聞かれたらこちらも尋ねるのが礼儀、でしょ。。

「私はねえ、研究生の『滝本真城まき』だよ」

 ふむふむ。あまり印象に残っていない、ということは

「去年入所したばかりの子よね」

「そうそう。歴は浅いけど、伸びしろありまくりの17歳っ」


 彼女は力強く言ったけれど、17歳で入所か。運よくデビューの順番が回ってきたとしたら、何歳になってるのかしら。

 20歳超えてデビューって、割としんどいわよ。

 いえ、それをわかっているからこそ、今回のオーディションに挑戦したのかしら。


 脳内に真城ちゃんの顔を思い浮かべている私に、

「絵里ちゃんも真城も無事に生き残れるといいねえ」

 呑気な口調にイラっとしながらも、同意せざるを得ない。


 TV画面には、強張こわばった表情で立っている少女たちの姿。

 第7回の放送にして、初の順位発表。緊張して当たり前。

 彼女たちの不安がこちらにも伝わってきて、手汗がじっとりと滲んでくる。


 どうか、絵里ちゃんが残っていられますように。

 手に力を込めて、一瞬映った彼女の姿に願いを込める。


 このオーディション番組は、所謂いわゆるランキング形式。審査員の評価と、視聴者からの投票によって順位が決まる。

 課題曲やオリジナル曲を振り分けられたチームごとに競い、1回目の順位発表では40位まで。2回目は27位まで。

 最終的には11人に絞られ、『ElEvEnイレブン』として、3年間という期限付きで活動していく。


 参加しているのはデビューを夢見る研究生100人と、既にデビューしている『Magenta』5人と『FoUrthフォース』4人のメンバー全員。

 合計109人。

 それが今日、一気に半分以上落とされる。


 残酷だけど、それもエンターテイメント。


 番組内のインタビューで絵里ちゃんが言った言葉。

 色々と思うところはあるけれど、両グループの現状を考えれば、応援するしかない。


「絵里ちゃんって、どのチームに振り分けられたんだっけ?」

 先ほどの呟きに言葉を返さなかったのに、那海は再びこちらを見て尋ねてきた。

 こっちは集中したいっていうのに。

 その瞳があまりにも純粋で、綺麗で。

「『oneワン』よ」

 気づけば応えてしまっていた。

「そうだったそうだった。上々の出だしだよね」

 対して那海は、真剣な顔をして頷き、親指を立てた。

「そうね」

 私も頷いて、過去の放送を思い出す。


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