第1話 ついてきた3

 俯いて過去を振り返っていた私に、

「別にいいじゃん。見えなくなったわけじゃないんだし。それに、私は涼ちゃんと再会できて嬉しいの」

 だから、家に入れてよ。

 那海は八重歯を見せて、明るく言った。私の後悔を吹き飛ばすように。


 そう言葉を重ねられてしまった私は、何故だか素直に招き入れてしまった。

 今まで大学の友人も、会社の同僚も入れたことがないのに。

 あっ、それは単に私に家に呼ぶほど仲がいい友人がいないだけ、なのだけれど。


 押し切られてしまったのだ。あの懐かしい笑顔に。


 そして、現在に至る。


 キッチンで熱々のコーヒーを飲みながら、先ほどと同じ体勢の那海を眺める。

 彼女がTVにかじりつくように観ているのは、私の推しが所属している芸能事務所『Numbersナンバーズ』が主催する『Numbers 11イレブン オーディション』番組。


 あまりにも熱心に、無言で観ているものだから、声をかけられない。


 どうして素足であんなところに立っていたの。

 なにをしていたの。


 というか、凄い美人に育ったわね。

 つり目気味の大きな瞳、ちょっと丸顔だけど、鼻筋がすっと通っている。

 うーん、分類するなら可愛い系かしら。アイドルやっていてもおかしくないぐらいのレベルだわ。

 体格だって瘦せすぎず太りすぎず、普通。

 ワンピースの裾から見える脚だって長い。

 欠点を挙げるとするならば、これ以上ないっていうぐらいなで肩なところと、猫背ってところね。

 顔も相まって猫みたい。日に良く焼けた肌から活発さが伝わって来るし。

 カラダをぎゅっと縮めてTVを観ているし。


 髪色がド派手なピンク色なのは……個人の趣味だから、他人がとやかく言うことじゃないでしょう。


 こんなに私がガン見しても、那海は視線を画面から逸らさない。

 その集中力は凄いわね。


 って、彼女を観察している場合じゃない。私もオーディション番組を観たいもの。

 ほんの少し残っていたコーヒーを飲みほして、那海と少し距離をとってソファに座った。

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