第1話 ついてきた2/3
幸いなことに那海の左目は失明せず、
だけ、だなんて、私も、私の両親も、彼女の両親も、ほっと胸をなでおろす理由にはならなかったのだけれど。
それから私たちは共に遊ぶことを禁じられた。
ご近所付き合いもなくなった。
当然の結果。
大切な一人娘を傷つけた私と遊ぶことを、許してくれるわけがないもの。
でも、那海は事故なんてなかったみたいに、私の家に遊びに来た。
親の目を盗んで、こっそり。
彼女を傷つけた負い目がある私は、那海の来訪を無下にできず、今までと同じように遊んだ。
いや、正確に言うなら一緒に時間を過ごした、が正しい。
積み木やブロックで遊ぶことがすっかり怖くなってしまった私は、当時から大好きだった女性アイドルが出演する歌番組を那海に観せた。
「みんなキラキラしてる! かぁいいね!」
ちょっと舌ったらずで、TVのアイドルに負けないくらい目を輝かせる彼女の姿が嬉しくて、私たちは何度も繰り返し歌番組を観た。
たまに一緒に歌って、踊って。
凄く楽しい時間だった。
罪悪感や負い目を忘れてしまうぐらいに。
それは長続きしなかったけれど。
那海は、幼稚園を卒園すると、両親の仕事の都合で兵庫県に引っ越してしまったから。
兄弟姉妹はいない。親は仕事でほとんど家にいない。学校に、アイドルを語り合える親しい友はいない。
寂しい私は、那海から不定期でくる手紙が唯一の心の拠り所だった。
でも、距離を置くほど、時間が経つほど、私がしでかした事の重大さを実感するようになって。
いつの間にか手紙に返信を書かなくなり、段々と手紙が来なくなり。
気づけば手紙のやり取りは途絶えてしまった。
後悔はしていない。寂しくて泣きたくなっても我慢した。
泣きたいのは、左目に傷を負った那海の方だと理解していたもの。
それから私は、孤独にアイドルを追っかけながら、罪悪感を抱えながら生きてきた。
だから、できれば一生那海と再会したくなかった。
己の罪と向き合うのは、夢の中で十分でしょ。
でも、私たちは再び出会ってしまった。
あのとき、風が吹こうが悲鳴が聞こえようが、彼女を無視して家に帰れば良かった。
なんて、後悔しても遅い。
後悔先に立たず。
それはいつだって同じなのだ。
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