第16話 勇者様、壁の前に立つ

 ページは話を続ける。

「先ほど、大盾の皆さんから聞いたのですが、オレンさん、あなたが六色ワンドの謎を解いたそうですね。」

 そう言われ、何か話が大きくなっている気はするが、肯定も否定も出来ない微妙さに、オレンは迷う。

「…。えーと、まあ、そう言えなくもないような…、あるような…。」

「あっ! あのですね、僕はあなたが持ってる情報源が知りたいとかじゃないんですよ! まず、あなたが成しえた功績を称えたいと思いまして!」

「凄いですよね。僕たちも調査していたんですけど、まったく何の痕跡も得られなかったのに!」

 意外なところで、意外な人物からの意外な称賛を受けて、少し照れるオレン。

「…。そう、ですか?」 (そんなに?!)

「そうですよ! あなたの発見はこの国の歴史を変えるほどのものですよ? ほんとに、一体どうやって調べたんですか?」

 ページは子供の様に無邪気に聞いてくる。

「えっと…。それは…。」 話が大きくなり過ぎて、オレンは逆に答えに詰まる。

「あ、やっぱり秘密ですか? そうですね。ハハハハハッ。」

 ページは好奇心に満ち溢れた子供のように、言葉に熱気が溢れてくる。

「六色ワンドが大盾さんのところの、ヒナさんの手に渡ったのも運命的ですよね。あ、ひょっとしてそれも、あえて、だったんですか? 知りたいなー。」

「あ、これだったら教えてくれますか? オレンさんは、大盾の勇者ヒナさんを、どう思っていますか?」

 意外なところから、意外な人物の意外な質問を受けて、少し照れながらオレンは応える。

「どうって…、まあ…、可愛いと、思います。」

「フフッ、まあ、そうですね。僕もとても可愛らしい方だと思います。」

「それよりなにより、彼女の魔法、素晴らしいと思いませんか?」

 ページの指摘を聞いて、オレンは自分が何を言ったのか理解し、赤面する。二人の横から失笑が漏れ聞こえるが、ページは構わず話を続ける。

「ヒナさんって、魔法の六属性エレメントを全部使いこなしてるじゃないですか?」

「ええ…。」 (え? そうなの? 知らんけど…。) 少しひきつって答えるオレン。

「六属性はそれぞれ、火と水、風と土、光と闇は反属性で打ち消し合ってしまうので、普通の術者は、自分の相性を考えてその内三つの属性を鍛える努力をするでしょ?」

「…。そうですね。」 (でしょ? と言われても…。)

 オレンは誤解が誤解を呼んでいるような話の流れを気にしつつも、取り合えず相手に合わせてみる。

「でも、ヒナさんは、この反属性の原理を無視して、六属性を極めて高いレベルで使いこなしてるんですよね。不思議だなー。」

「あっ!!」 ページの突然の大声に、ビクッ! と反応するオレン。

「オレンさん、あれ見ました? ヒナさんの世代が魔法学園を卒業した時の公開模擬戦。あれ凄かったですよねー。」

「僕、あの時の映像を保存して持ってるんですよ。ちょっと見てみませんか?」

「あ、はい、ぜひ。」

 ページの言葉はオレンの知らないことばかりだったが、この提案はオレンの個人的な興味を引き出した。

「えーと…。何処やったかなー。うーんと…。」 ページは辺りをガチャガチャと探し出す。

「タンゴールさーん! ちょっといいですかー! 僕らが作った映像機、何処に置きましたっけー?」

 と大声を張り上げ、タンゴールを呼び出す。

「今行くから、ちょっと待ってな―。」

 と、さっきの場所から返事が返ってくる。間を置かず現れたタンゴールというドワーフの女性は、燃えるような赤い髪と大地を思わせる土色の肌をもち、しっかりとした骨格をしている。しかしその声は子供っぽく、身長もページとほとんど変わらない。

「ペーちゃんは、使ったらちゃんと片付けないから、わかんなくなるんだよ。」

「え~、でも~、よく使うから片付けるの面倒くさいよ~。」

 二人のやり取りは傍から見ると、本当に子供同士が遊んでいるようにしか見えない。タンゴールはある程度の見当をつけて探すと、簡単に見つかり、カチャカチャと映像機の設定を始めた。その間に、

「この映像機はですね、レンズを通して得た光の映像を封じ込める魔子回路を使ってですね…。」

 と、ページは映像機の講釈を始める。しかし、それが終わるのをタンゴールは待たなかった。

「できたよ。何処に写す?」 「じゃあ、こっちに。」

 と、ページは適当な壁を指さす。タンゴールが映像機に魔素を込めると、中央のレンズから光が放たれ、壁に反射し映像を投影した。

 その映像は、広い闘技場のような場所で、障害物などが配置され、より実戦に近い形の模擬戦の様子を映していた。四対四の陣営に分かれて、攻防を繰り広げている。その中には、確かに見覚えのあるピンクの髪の女の子がいた。ヒナと思われる少女は後衛で味方のサポートに徹しているようだった。

「ほら、ここ、いいですか? 味方の射手が弓を引き絞る瞬間に、ヒナさんが補助魔法を掛けてます。」

「土属性で貯めを強化して、次の瞬間には放たれた矢を風属性で加速、命中するタイミングで火属性で火力を高めてます。」

「凄いですよね、こんな短い時間で…。」

 と、映像の中で起きている状況を細かく説明するページ。その説明を受けて放たれた矢は確かに、通常ではありえないような破壊力を持って敵を攻撃していた。オレンはその映像と説明を聞いて息を飲む。

「ヒナさんがやってることは、一つ一つは難しいことじゃないんですよね。」

「凄いのは六属性を隙なく使いこなした上で、その精度と早さが洗練されていて、尚且つそれを多重的に実行できちゃうとこです。」

「よく見て下さい、射手に掛けた補助魔法と同じことを、同時に他の二人にも掛けてます。」

「ほぇ~~。このお嬢ちゃん、器用だねぇ~~。」 タンゴールは映像を見て感嘆する。

「トリプル詠唱をする魔法使い、か…。百年に一度の天才なのだろうね。」 ノエルもヒナを絶賛する。

「ん~。ひょっとしたら、それは正確ではないかもしれませんよ? この映像からだと断定はできないけど、もしかするとヒナさんは、トリプル詠唱を可能にするために、自己強化魔法を掛けてる可能性もありますね。そうすると、トリプルじゃなくてクアッド詠唱してるってことに成りませんか?」

 ページの想像を上回る発言に、三人は言葉を失う。その沈黙の中、投影された映像は、ヒナは敵に直接的な攻撃を一切しないまま、相手にほぼ何もさせず、一方的な勝利を映し、途切れた。その最後の映像を見て、ページは言う。

「きっと、エレメントに愛されてるんだろうなぁ。」

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