幕間 その1 猫の名は・・・
猫を救って戻ってきたヒナは、空からバルコニーに降り立った。
「あっ! どこ行ってたのよ! ヒナ!」
「ってアンタ、何そのソレ。」
ルーナは、バルコニーから室内に歩いてくるヒナをみつけた。そして、ヒナの帽子の隙間から、みかんを咥えた猫の顔を指さし呆れたように尋ねる。
「なんか…。懐かれた。」 ヒナの言葉からは、その状態を良しとするのか嫌なのか良くわからない。
「ちょっとw、アンタ、テイマーのスキル持ってんの?」
と、ルーナは茶化す。つんつんと猫の顔を突っつくが、猫はこの場所が気に入ったのか、頑なに動かない。
「おやおや、これは可愛らしいですね。」
その様子を見ていた陸奥が一言はさむ。少女が頭に子猫を乗っけている様は、見た目そのままに確かに可愛らしかった。
「ヒナさん、その猫はどうされるんですか?」
その上で陸奥は、連れてきてしまった以上、可愛らしいだけでは済まない問題を優しく問いただす。
「一緒に、住む。」 ヒナは即答する。
「ヒーナちゃーん。アンタもう勇者なんだから。世話、できないでしょ~。」
「そうですよ。何日も会えなかったら猫ちゃんが可哀そうですよ。」
ルーナと陸奥は社会常識を一から教えるようにヒナを諭す。それはまさに、ペットを拾ってきた子供と親の姿であった。
「大丈夫。そんな時は妹に預けるから。」 ヒナからの意外な回答に、二人は少し驚く。
「へぇ~。妹いるんだ。」
「ってアンタの妹って、年いくつよ?」 ルーナのするどいツッコミ。
「14歳。今、魔法学園の寮にいる、はず。」
その返答に、二人は顔を見合わせて困った様な顔をする。そして、ヒナに一言言おうとした瞬間、一部始終を黙って見ていたブラッドが口を開いた。
「ヒナ。その猫本当に、世話できるのか?」 ブラッドはヒナの虚ろな目をしっかり見て話す。
「うん。」
「約束できるか?」「約束する。」
「よし。約束できるなら、やってみろ。」
それは、本当の親子のような会話だった。ヒナの年齢から鑑みると、その幼すぎる会話にルーナと陸奥は少し不安を抱くが、ブラッドはあくまで対等に接していた。
「えへへ。よかったね、ピアー。」 普段から表情の薄いヒナが、いつの間にか付けられた子猫の名前を呼び、屈託のない笑顔を見せた。
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