バレンタインに無縁な受験生の夢。

待雪 ぜな

2月も13日目。

学校での授業も無くなって、

残り少ない時間を費やしに予備校に来た受験生たち。

けれど、勉強に身が入らない様子。


理由などわかりきっているが、ここは予備校だ。

高校じゃないのだから、チョコをもらう相手などいない。

それでも醒めない夢に耽るのは、現実を知らない若さ故か。



「勉強しかしてない奴らが貰える訳ないだろ」


冷めた目で吐き捨てる青年。

勿論、周りには聞こえない程度に小声で。

冷めた目ではなく拗ねた目かもしれない。


「ブーメラン」


氷点下273度の、眠そうな目で言い放つ少女。

背が低い所為で、

近くにいるのには気付かれなかった様だ。


「ネコ、正論で人を殴るのはよくない」

「ちょうどよく殴れる位置にいるのが悪い」


にべもない音子。


「えー……なら、貰える側になればいいのか?

 音子、くれない?」

「今日13日。家にチョコない」

「帰る頃には夜だしな……無念」

「……仕方ない、あるやつで何かてきとーに作ってくる」

「え、まじ?」

「今なら冗談で済ませられるけど」

「いやください」



青年が何かの炎で燃える目に囲まれていたことには、

気づかなかったようだった。




*********


中学から同じなだけあり、

途中までは一緒に帰っていた二人。

青年と別れたところで、音子は鞄を覗いた。


「……財布、ある。ぎりぎりスーパーも開いてるはず」


踵を返し、音子は駆けだした。




*********


翌日、青年が予備校の自分の席に向かうと、

猫柄の透明な包みが置いてあった。


「マドレーヌ?すごい凝ってるけど……音子っぽくないな」


スマホを取り出し、何かを調べ始めた青年。

その様子を、音子は廊下から眺めていた。


「なんでそこだけ勘がいい……もやもやしたまま受験しろ、ばか」



授業開始の直前になって、音子は教室に入っていった。

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