最終話 願いは違えど、叶ったり!

 「おい、どうだった?」

 「い、いやぁ、意外と手ごたえあってさぁ」

 「まじか?!その格好で?」

 「逆にそれがウケたらしい。なんでだろ?自分でもよくわからないんだよな。おまえはどんな感じ?」

 「いやぁ、いいんだか悪いんだかなぁ。いまいち手ごたえがなぁ」

 「そうか」

 「で、どこに行ってきたんだよ」

 「Camsa de Modeってとこ」

「ま、まじか!超有名アパレルブランドじゃねえか!」

「そうなのか?詳しくは知らないけど、お前がアパレル受けるっていうから、もしやいるんじゃないかと思って行っただけだよ」

 「そこに手ごたえあったってことか?」

 「まぁ。面接官に名刺もらっちゃってさ」

 「なにぃ?説明会レベルでか?見せてみろよ」

 「いいけど俺もまだよく確認してないんだ」

 「なにぃ?山上信二だとぉ?直々に?」

 「その人、そんなにすごい人なの?」

 「アパレル界の重鎮だぞ!その筋では知らないやつはいないぜ?」

 「そうなのか?全く知らんけど」

 「いいなぁ、そんなのほぼ内定だぜ?俺をよくも出し抜いたな!そのなりで」

 「逆にそれが話のネタになってさ」

 「そんなこともあるんだな。参ったな」

 まさかの逆指名!禍を転じて福と為すとはこの事か。

 その後、山上から三夫に電話があり、正式に「Camsa de Mode」に入社することができた。方や梨田はと言うと、苦戦した挙句内定はもらったものの、農薬系会社に入社することになった。何とも真逆な皮肉な結果になった。

 三夫は農家向けブランドのプロジェクトリーダーとして、梨田は三夫に古代米の生育方法を聞きながら稲作の農薬のスペシャリストになり、社会人になっても情報を交換し合う仲を継続していった。

 「ああ、紙に書いて望んだ願いができなくなって良かった」

 と、三夫は事あるたびにあの「名刺」のような紙と墨汁とあの老人について回顧するのであった。

 そしてあの老人は、あの古代米の田んぼの作業小屋で、あの紙きれに墨汁で何やらを書いて、どこからか入手した三夫の写真にその紙切れをそっと貼って、壁に飾っていた。

               (おしまい)



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老人と紙切れと就活生 イノベーションはストレンジャーのお仕事 @t-satoh_20190317

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