第23話 三夫と松の木片との関係性
折角暑い中、松の木片を干していたのに何故か木片はびちょびちょに濡れている。
「お若いの。暑いからといってすぐに水を飲むのはどうかのぅ」
「そんなこと言われてもこの暑さじゃ干上がってしまいます」
「そんなことないじゃろう。人間、そんなにヤワじゃなかろうに」
「で、でも」
「ものを作るというものは大変じゃろう?普段そんなことは思わんだろうて」
老人の言う事も最もだ。確かに水を飲もうと思えば蛇口から出てくるし、暑いと思えばボタン一つでエアコンが作動し快適な温度になる。
「どうやら、その木はお前さんが水を飲むと水が染み出すようじゃのう」
「ってことは、水を飲むとずーっとこの木片は乾燥できないって言う事ですか?」
「そうなんじゃろうなぁ」
<まじか!この木片が乾燥しきるまで水を飲めないってことか?この暑さなのに?!
乾燥するまでどのくらい掛かるんだ?>
日の光は更にその勢いを増し、昼前には30度は有に超えていると思われた。三夫はゼェゼェ言いながら暑さに耐えながら、切り出した松の木片の乾燥具合を見て日の当たる部分を変えている。
どれくらい時間がたっただろうか、三夫は暑い最中また寝てしまった。気づくと朝になっていた。
「あ!またねちまった!」
そこに老人が現れた。三夫の唇は水分不足でしわしわに乾燥している。
「お若いの、起きたかの?」
「すみません、また寝てしまいました」
老人は三夫が寝過ごしたことをさほど気にかけていない様子だった。
「お、松の木もいい具合に乾いておるな」
「そ、そうですか!やった!じゃあ、早速火に入れましょう」
「うむ」
「その前に、と」
三夫は水の入っている甕の前に立った。
<ま、まてよ?ここで水を飲んだらまた松の木が水浸しになるかも知れない>
三夫は老人に聞いた。
「ここで水を飲んだらまた松の木は濡れてしまいますか?」
「さぁ、それはどうかのぅ」
「え~!そんなぁ」
三夫は思案した。先ほどの古代米の失態を思い出した。自分が釜の事をきちんと見ていなかったせいでまる焦げにしてしまった。もし、ここで水を飲んで松の木が濡れてしまったら今までやって来た事が無になってしまう。三夫は喉の渇きに耐える事を選択した。
「ご老人、早速松の木の煤を作りましょう!」
「うむ」
老人は両側がぶ厚い土壁仕切られた空洞に松の木片を入れ、その空洞の上に距離を置いて藁の束をアーチ状に覆って火を入れた。三夫は竹筒で息を入れて火を守っている。
しばらくすると、藁の束に黒い煤が付き始めた。
「この煤ですね?」
「そうじゃ。これを集めて先ほどの古代米の膠と水を混ぜれば墨汁の完成じゃ」
「そうです、」
三夫はその場に倒れこんだ。どうやら脱水症状のようだ。老人は大量の甕の水を三夫にぶっかけた。
「うわぁ、なんだ!?びっくりした!」
三夫は目を覚ましたが、不思議なことに濡れていない。しかし喉の渇きは治っていた。
「この水は不思議な水なんじゃ」
老人はにやっとした。
⇒第二十四話
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