第21話 炭の作り方

「墨汁はなぜ黒いのかは存じておるじゃろ?」

「はい。材木を焼いて作るからですかね」

「そうじゃ。その原料になる木なんじゃが、松の木じゃ」

「はぁ」

<あ~あ、古代米の時みたいに、またどっかの山奥に生えてたりして取ってくるみたいなことか?>

三夫は老人の言葉に警戒して聞いていた。

「その松なんじゃがの」

<きた~>

「庭に生えてるやつじゃ」

「そ、そうなんですか?」

<え~まじですか!やった、お手軽じゃん!>

三夫は心中でガッツポーズ。これで手間のかかる作業から解放される、と思った。

「その松を削ると松脂が出るのじゃが、それを取り除かんといかんのじゃ」

「天日干しするのじゃ」

「どのくらいの期間ですか?」

「松脂が乾燥しきるまでじゃ。乾燥したら火で炙ると周りに煤として器に付くのじゃ」

「それを集めて古代米の粉と水で混ぜれば墨汁の完成ですね?」

「左様」

<お、すぐ意外にできそうな手順だな!出口が見えたかも>

三夫は少しにやついている。

「では、早速庭の松の木から材料を切り出しましょう」

「うむ」

老人がそう言うと、三夫は勢い勇んで老人の家の庭に生えている松の木を切り始めた。そうすると大量の松脂が出てきた。しかも、どばどばと溢れかえっている。

「うわぁ」

三夫は松脂の量に驚いて、思わず声を上げた。

「これって、物凄い量なんですけど」

「ああ、そうじゃな」

老人は平然と答えた。三夫の切り出した松の木片は脂でぐっちょぐちょになっている。これを乾かすと相当時間がかかると思うと少し滅入ってきた。三夫の足元にも松脂が流れ込んで靴を浸すくらい着いた。三夫は松脂から足を抜こうとするが、くっついて足が抜けない。

「ご老人!足が抜けません!」

「がははは」

老人は高笑いしている。

「笑い事じゃないですって」

「まぁそう怒るな。そこで松の木を削って天日干しすればよいじゃろう」

「ま、まあそうですけど」

三夫は松脂で足を固定されたまま、松の木を削って天日干しするはめになった。


⇒第二十二話

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