第20話 三夫、稲作をやり直すのか?

 漸く実った古代米を焦がしてしまった三夫は絶望感に襲われていた。

「うそだろ?せっかくここまで来たのに」

半泣きしている三夫のところに老人がひょこんと現れた。

「お若いの、どうかしたかの?」

「す、すみません。寝過ごして古代米を」

「どれどれ」

老人はお釜を覗き込んだ。

「何と!焦げてしまったか!!」

「申し訳ありません。これまでの苦労が水の泡に」

老人が暫し黙り込んだ。

「仕方なかろう。このまま使うしかないじゃろ」

「え?それでも使えるんでしょうか?」

「それは墨汁を作って出来栄えを見てみないと分からんのぉ」

「そ、そうですか」

「ま、墨汁づくりは続けるとするかの」

三夫は効能が無いかも知れない墨汁を作ることになった。しかし、それは自分が寝てしまった事による過失であり、自身の責任である。三夫は腹を括るしかない。

「わかりました。続けましょう」

老人はにやっとした。

三夫はお焦げになった古代米をお釜からかき集め、皿に盛ってみた。量的にはそこそこある。だが焦げているので糊になるかは微妙である。

「その皿を持ってきてくれぃ」

老人は三夫の持ってきた古代米のお焦げを年季の入った木の棒とすり鉢でごきごきやりだした。お焦げは見る見るうちに粉々になって黒い粉になっていった。最終的に残ったのは僅かばかりの古代米の黒い粉末になった。

「このくらいでよいかの」

老人はその黒い粉末を白い薬包紙に包み込んだ。

「完成ですか」

「そうじゃの。あとは炭を作って水に混ぜれば出来上がりじゃ」

三夫はほっとしたが、古代米を焦がしたこと悔やんでいた。


⇒第二十一話

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