第19話 三夫、古代米を育てる

 三夫の望みを叶えるためには、古代米からできる膠(米の糊)という墨汁の原料の入手が必要になった。そのため、古代米の収穫から始めることになった。

「どうしてこんな羽目に」

 と、嘆いたところで今更後戻りはできない。しぶしぶ謎の老人に稲作を教わりながら古代米の収穫を行った。

 田んぼを耕し、水を引き入れ、苗を植え、害虫の駆除をし、天気の悪いときは田んぼに行き、稲の状態を見守った。

 月日はかなり流れたと思われた。ようやく、古代米の稲が元気に育ち、刈り取る段階になった。

「若いの、よう頑張った。ついに古代米を収穫するぞい」

「はい!ようやくですね」

三夫は稲作に没頭しすぎて、本来の墨汁づくりの事は頭から無くなっていた。

古代米は1反分収穫され、それから脱穀してもみ殻を取り出した。大体3合くらいだろうか、それぽちしかで収穫できなかった。

「これを普通に炊いて練り上げれば完成じゃ」

「おお、ついに膠が手に入るんですね!苦労した甲斐もあります」

 老人は収穫した古代米をお釜に入れて炊きだした。

「若いの、釜の番をしておいてくれ」

「はい。わかりました」

 老人は徐に昔話をしだした。三夫は釜の火加減を見ながら老人の昔話を聞いていた。だが、その話が一向に終わらないし、大して面白みもない。三夫は聞きながら欠伸が出てきて、ついに寝てしまった。

「あっ!」

 と三夫が起きると、お釜から黒い煙が立ち昇っている。老人は何故かその場にはいなかった。

「やばい!せっかく育てた古代米が!」

三夫がお釜を開けて覗き込むと、無残にも黒焦げになっていた。


⇒第二十話

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