第18話 墨汁の原料は?

「ところで若いの、墨汁の作り方は知っとるかの?」

「全く知りません」

「じゃろうな。墨汁の原料は炭と膠(にかわ)、簡単に言うと糊じゃな、それらを使って水で溶いて作るのじゃが」

「はぁ」

「その膠っというのはこの辺に代々伝わる古代米を使うのじゃ」

「その古代米はどうやって手に入れるのですか?」

「今から育てるのじゃ」

「は?」

三夫はあっけにとられた。

「い、いや、お米って育つのに1年は掛かりますよね?」

「そうじゃ」

「じゃぁ、その墨汁を作るために1年かけるって言う事ですか?いやいや、聞いてないですよ、そんな事。第一、僕は就職しないといけないんですよ?もう就活期間も終わりそうなのに」

「じゃぁ、やめるかの」

三夫的にはこんな辺鄙な所から脱出できるはずはなく、古代米を1年かけて墨汁を作るという一択しか残されていない。

「い、いや!がんばって古代米を育てます!その後ちゃんと墨汁も作ります!」

「おお、そうか。よくぞ言った」

<こうするしかねぇし。参ったな>

「早速米を育てるとするかの」

老人はそういうと、徐に鍬を持って外の田んぼへと向かった。三夫も老人の後に続いた。

「さてと、鍬を持つのもひさしぶりじゃのぉ」

老人は鍬を振り上げて田んぼへと突き刺した。

「え?耕すところからですか?」

「当り前じゃろうが。寝ぼけたことを言うでないぞ」

「はぁ」

<えらいことになっちまったな。この先どうなるんだろ>

三夫のお先は真っ暗。でももともとそうだから仕方ない。がんばれ!三夫!


⇒第十九話

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