第16話 墨汁の秘密

不思議な紙の効力を発揮させるには、専用の墨汁が必要だと老人は言った。

「その墨汁はどこにあるのです?」

「自分で作るのじゃ」

「墨汁を自分で作るんですか?」

「そうじゃ。売ってないからのぉ」

「どうやって作るんですか?」

「わしの作業小屋で教えてやるぞぇ。どうする?やってみるかぇ?」

三夫は暫し考えた。

<もし墨汁ができて、自分の思い通りのキャラが出来たら自分の分身が出来たりするのかな?そうなれば就職もしないで楽して暮らせるかも!>

邪な考えが三夫の脳裏に浮かんだ。

「はい、やってみます!」

「そうか。来週の水曜日のこの時間にまた来るから用意して待っておれ」

「わかりました」

そう言うと、老人は知らないうちに居なくなっていた。

その次の水曜日、三夫は早朝から大きな荷物を携えて例の公園で老人を待ち構えた。老人の話から察すると、例の紙切れに使う墨汁は1日やそこらでできるような口ぶりではなさそうだったので、数日間泊まり込む装備をしていた。

暫くすると、老人が三夫の前に現れた。

「よう、お若いの」

「あ、おはようございます」

「どうじゃ、わしと小屋に籠る準備はできておるかの?」

「はい、一応そのつもりです」

「そうか、じゃ早速向かうとするかのぉ」

老人の傍らにはゲーセンのクレーンゲームで取った景品の様な大きい競走馬のぬいぐるみが待機している。「天馬」という文字が例の紙に書いてあり、その馬の額に貼り付けてある。

「良いか、こいつに跨ってわしにしっかりつかまってるのじゃぞ」

「は、はい」

三夫はぬいぐるみの馬の背に跨って、老人の背後にしがみついた。すると馬のぬいぐるみは天高く舞い上がり、びゅーとどこかへ向かっていった。


⇒第十七話

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