第9話 あれっ?

 まだ昼飯には早い11時、JR吉祥寺駅の北口で二人は合流した。

「よっ、毎度」

「毎度じゃねえし」

「なんだ、機嫌悪いのか?」

「いや、そういうわけではないが、お前が小馬鹿にするからだろ?」

「馬鹿にはしてないぞ。ちゃんと事実に基づいている」

「まぁ、それは確かに嘘ではないが」

「で、何喰う?」

「そうだな、やっぱラーメンだな」

「やっぱ、って何だよ。一択なのか?」

「何となくだよ」

「じゃぁ、そうするか。そうなると春風だな」

 二人はガード下を歩いて南口に出て「春風」なるラーメン屋に向かっている。そこそこ人気の魚介系スープの店だ。歩いて数分、店の前は早い時間なのにかなりの行列が出来ている。

「やっぱ混むなー」

「仕方ないよ。ここはしばらく並んで待とう」

 行列に並んで30分弱、漸く店内に入れた。

「いやぁ、案外早かったな」

「そうだな」

 店員が注文を取る。

「おれ、鯛の塩ラーメン。三夫は?」

「黒ラーメンで」

 店員がテーブルを離れた。

「おい、ところでお前さ、この前防衛大臣の話をしてきただろ?あれは何でだ?一国の防衛大臣を就活生が知らないなんて、それこそ終わりだぜ?」

「ああ、あの件な。まあいいじゃないか、過去のことだ」

「過去の事って、それで片づけるのか?もう一度勉強しなおした方が身のためだぜ?」

「もう就職はしない」

「は?お前正気か?この不景気に。この先どうするんだよ」

「まぁ、考えはあるから平気だ。心配ご無用」

「どういう考えだよ?」

「それは今は言えない」

「どうせ考えなんてこれっぽっちも無いんだろ?」

「そんなことは無い」

店員が注文したラーメンを持ってきた。

「まぁ、うまいラーメンでも食おうぜ」

「あ、ああ」

三夫はあの「紙切れ」の話は梨田には伏せておいた。


 ラーメンを食べた後、ご満悦で部屋に戻った三夫は目を疑った。外出時に干しておいた敷布団がびりびりに切り裂かれている。切れ端が布団を干した安全柵の下に無残に落ちまくっている。

「なんじゃこりゃー」

 慌てて掛布団を回収しようとしたとき、布団の折り返しの頂点に何やら物体が乗っている。しかも異臭を放っている。

「くっさ!」

 一連の仕業は猫であるらしい。異物は猫の「落とし物」であった。

「何でこんなことに。スライムに守り神の札を貼ったのになぜだ?」

あの札には発動要件があるらしかった。


⇒第十話

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