第6話 三夫、何かに名札を付けてみる(参)

「梨田。あのさ、今の防衛大臣って誰だっけ?」

「なんだよ、急に」

 梨田は少々怪訝そうに応答した。

「いやぁな、近頃日本も日々の安全が脅かされてる時代じゃん?」

「まぁ、そりゃそうだな」

「それでさ、俺もちょっとその事について考えてみよっかなぁ~と思ってさ」

「お前さぁ、急に電話して来てそれかよ。いくら就職が決まらないかと言ってそんな事を考え始めたのか?大丈夫か、お前。もっと自分の就職先の事を考えろよ。そんなんだから就職決まんねぇんじゃねぇのか?」

「まぁそうかも知れないけどさ。ただ、ふとそう思っただけで」

「ふーん、まぁいいや。今の防衛大臣は、」

「うん」

電話口で三夫は固唾を飲んだ。

「小芥子大臣だろ?」

「え?まじで!」

「おいおい、就職しようって人間が国務大臣知らないなんて、そりゃ問題だな。常識だろ?」

「いつから小芥子大臣が就任してるんだ?」

「確か、海岸総理大臣の第二次改造内閣だから半年前位からだな」

「え?そんな前からなのか?おい、梨田。いまTV観れるか?」

「ああ」

「10チャンネル点けてくれないか?」

「いいけど。今、ニュースばっかで詰まらん時間じゃんか」

「ま、いいから」

「めんどくせえ奴だなぁ」

そう言うと、梨田はTVのチャンネルをリモコンで10に合わせた。

「防衛ネタだろ?いま」

「ああ、そうだな。小芥子大臣が出てるな」

「だ、だよな?その画像、おかしいと思わないか?」

「何がだよ。普通のコメント言ってるだけじゃねえか」

「え?だって、防衛大臣が小芥子ってどう考えてもおかしいと思わないのか?」

「お前さぁ、何言っちゃってるの?こんなの、半年前からそうなんだからおかしいも何もないだろうが!大丈夫か?ほんとに」

<いやいや、小芥子が大臣って、あり得ねぇだろ。全くどうなってるんだ?>

電話口で独り言が口を突いた。

「ま、その辺から勉強し直すのも就活の一手だわな。ま、頑張れよ。じゃあな」

梨田への通話は途切れた。三夫にはこの事実がまるで理解できなかった。

「ん?待てよ?もしかして」

三夫は何かに勘付いた。


⇒第七話

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