悪い心
昔々あるところに、小さな村がありました。小さな村には、少し不思議なものがありました。
その小さな村では、ほとんど1家族に一体からくりが居ました。そのカラクリには「良い心」の結晶が当てはめられていました。
その村の中の孤児院に、とてもとても正義感の強い「良い心」を持った男の子がおりました。その男の子は本当にいい心の持ち主でした。
きっと、「良い心」として人に幸せをもたらすカラクリになれると思いました。
ある日、遂に「良い心」として結晶を作り出す日が来ました。この結晶を人から抜き取ってしまえばその人からは「心」が無くなってしまいます。男の子にはその覚悟がありました。美しい煌めきを持った結晶が男の子の胸の前に出来ていきます。同時に、男の子は何か大切なものが溶けていくのを感じました。
そうして、一つの美しい心の結晶が出来上がりました。
正義感の強い「良い心」はすぐにカラクリへと当てはめられました。そのカラクリは、とある孤児の少女のところへと送られました。
「良い心」を持ったカラクリは献身的に少女にとっての「良いカラクリ」として一緒に遊んだり、お世話に励んだりしました。幸せに過ごしていました。
ある日、少女とカラクリはいい天気の中を散歩していました。穏やかで、幸せで、「理想的」に。
道中、この村の「いい人」とされるお金持ちの人がやってきました。そして、女の子に「私の家に来ないか」と言いました。女の子は、不思議なことに、その誘いを断りました。いい人は頑張って誘いました。けれど彼女の心は動きません。いい人が家へ連れて帰ろうとした時、カラクリの鉄でできた手がいい人の腕を掴みました。いい人は振り切ってそのまま進もうとします。カラクリには止められません。
カラクリは、その手を家庭用の包丁に切り替え……
「いい人」を刺しました。いい人は下から崩れ落ちました。赤黒い液体が力無く、いい人の腹部から滴ってきます。
女の子は逃げました。カラクリは包丁を抜いてその場を去りました。いい人からは噴水の様に液体が吹き出しました。
すぐにそのカラクリは捕まりました。当然です。「いい人」を刺したのですから。
いい人を刺すようなカラクリは「悪い心」を持っていると言えるでしょう。そんな悪い心は処分して、「良い心」に作り変えなければなりません。カラクリの言い訳など聞く価値もありません。急いでそのカラクリから「心」が取り出され、その結晶を破壊しました。
小さく散った心の粒から良い心を再構成して、「いいカラクリ」にするのです。
その日からカラクリは誰も傷つけないそれになりました。
その場には、無用の正義の粒が残されました。
めでたしめでたし
紙の束と文字の山 なめらか @nushimiya4
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