青の少女
高校の昼休み、俺は屋上で昼食を済ませて、下に見える街並みと果てのないように見える青い空を眺めていた。空を辿っていけばどこまででもいけそうな気がして、不思議な気分になる。その時間はとても心地よくて…いつしかそれは日課になっていた。
ある日、俺はいつも通り空を見上げていた。気がつけば昼休み終了5分前。この後に遅れてしまう。急いで屋上から校舎に帰ろうと階段へ向かった時、少女はいた。
綺麗な空色の髪、吸い込まれてしまいそうな深い青の瞳。まるで空のような、少女だった。ドアを開けた音も、人の気配もそれまで一切なかったのに、少女ははなぜか存在感を漂わせて後ろに立っていた。
「はじめまして、こんにちは。」
まるで鈴のような声で、微笑みかけ、話しかけてきた。空のように綺麗だった。
次の日の昼休み、妙にあの青の少女のことが気になってまた屋上で空を見ていた。空も、少女も見たかった。ふと意識を上の方へ向けると、少女はどうしてか空に浮いていた。
「昨日の…!」
「あら、覚えていてくれたのね!そうよ、昨日ぶりね。」
「…なんで浮いているんだ?」
「企業秘密で」
「企業ではないだろ…」
他愛のない会話をしている内、いつのまにか少女が消えていて、また彼女について聞くこともなく昼休みは終わりを迎えていた。知り合ったばかりの他人のはずなのに何故か彼女のことを知りたくなった。
それから毎日、屋上の空で彼女と話をするようになった。彼女と話しているうちにいつの間にか時間が過ぎていってしまう。名前すらも聞くことができない。知りたいけれど、彼女と話している間に忘れてしまう。
そんな日々を過ごしているうち、こんな噂が聞こえた。
『屋上には自殺をした少女の霊がいて、仲間を増やそうと話しかけてくる。そして、話に応じた人は最後、彼女と同じように飛び降り自殺をしてしまう』
まるで屋上の少女の話のようだった。けれど俺は信じられなかった。信じたくなかったのかもしれない。それでも、自分が死んでしまうように思えて暫く屋上には行かなかった。一週間ほど経った日、真相を確かめようと、その日は久しぶりに放課後に屋上に行った。
少女はいつものように空にいた。どこか遠いところを眺めるように手すりに腰掛けていた。このとき、初めて自分から話しかけた。
「…幽霊なのか?」聞く言葉が思いつかなかった。
「幽霊じゃないよ?」彼女は答えた。
それで自分はなぜかとてもほっとした。自分が死なないで済むと分かったからだろうか…?
「もしかして私を噂の幽霊だと思ってたのー?」
「…」
「その反応は図星だねーっ」
「…ごめん。」
「大丈夫だよー?それに………」
顔を上げた瞬間。彼女の顔が目の前にあった。吐息が顔にかかる。「それに」の後の言葉を待てどもその答えはなかった。
俺は彼女と共に…抱かれて空を落ちて行っていた。最後、彼女が口を動かしたように思ったがそれを理解することは出来なかった。理解する前に全身がアスファルトに叩きつけられる感触がして俺は意識を手放した。
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