部屋に来た化け物

「面白そうだから、ついてきちゃいました。」

 少女アルスケットの目の前で、人を肉塊にし、彼女に恐怖を与えた物体化け物が無邪気に言い放った。あの時と変わらない優しく、明るい笑顔で。何もなかったかのように。何も知らないままこの顔を見たら、優しげな茶髪の少女と言う印象を持っただろう。


「……………」

「黙りこくってどうしたんですか?お話ししましょう?私、おはなしが大好きなんですよね、話しましょう?そのために来たんですからっ!」


ここだけ見ていると、この子が化け物なことが信じられなくなるほど、それほどに純粋に見えた。純粋な心を持った化け物。こんなにも、こんなにもただの少女のようなのに。逆に怖くなった。人を肉塊にしたのに。それなのにコレはまるで…遊びのようだ。


「だから、仲良しの印にお友達になりましょう!」

「………なれるわけ無いだろう。信用もできていないのに…」

「攻撃しないです!なので…なので友達になって下さいっ!」


…少し、気になる気がした。必死な気がした。もしかしたら正気を失ってしまったのかもしれない。いや、きっとそうだろう。


「……信用が出来たらな。目の前で仲間を肉塊にしたような奴をすぐに信用できるわけ無いだろう?」

「…そうですか……なら……」

「なら………?」


ならどうするというのだろうか…嫌な予感と、後輩の死に姿が頭をよぎる。

あんな最後はまっぴらごめんだ。


(まずいことを言ってしまったかもしれない……)


緊張でアルスケットが黙る中、彼女はこう言った。


「なら…信用されるように頑張ります!貴女のそばでっ!」

「はぁ?」


どういう事なのだろうか…


「これからよろしくお願いします!枯野さんっ!」

「ど、どういうことだ?何をするつもりで……」

「貴女のすぐそばで、なんか色々しますっ!貴女の部屋とか隣とかで!」

「具体性はないのか!?」

「ないです!」


………。面倒な事になった。

 相手も相手だが、私も大丈夫だろうか…。もし他の人にバレたら…どうなるかは分かったもんじゃぁない。


「と、いうわけで、何かお手伝いすることはありますか?」

「いいや、大丈夫だ……部屋から出ていってくれればありがたいが………」

「それは無理です!せっかくお友達になれるかもしれないのにっ!」

「えぇ…………」

「何故だっ!私以外にもそんな少し話を聞いてくれる人は……」

「確率上そうかもしれないですけど、実際いるとは限らないじゃないですか!」

「こんなに人間いるんだ、どうせ居るだろっ!?」

「どうせってなんですか!実際私が待ち続けて、長い間待ち続けて、話を聞いて少し話してくれた人なんて貴女が初めてなんですよっ!」

「マジか…」

「マジです!これから先ないかもしれないような、奇跡的なチャンス、逃すわけ無いじゃないですかっ!」

「弱ったな………」


逃げられないようだ。

渋々、承諾した。その時の彼女の顔はとても明るく輝いていた………嬉しそうでよかったよ……私は常に恐怖と隣り合わせになるんだが。私だって死にたくはない。

こうして、花を枯らす魔女と花を咲かせる少女の物語は幕を開けた………

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