第4話

牢穴から出た瞬間、私は家に向かった。


月一の外出では家族を含め、全ての貴族と話すことは許されなかった。

私は街でお母様やお父様を探しみても、いなかった。


家に着いた時、私は淡い期待を抱いていた。

お母様が、私の名前を呼び、元気だったか、何があったのか、あなたの味方だ、と言い、お父様がお前を苦しめた代償を払わせなければならない、などと言ってくれるはずだった。


だけど、現実は全く違った。

お母様やお父様がいなかった。

カーナの家、つまりカフィコフ家がいたのだ。


そこのメイド達に見つけられた瞬間、私は再び拘束された。


「カーナ様っ!!ご覧下さい、この卑しくって汚らしい女がなんと、カフィコフの敷居をまたいだのです!」


メイドがカーテンの向こうに話しかけた。


意味がわからない。


「ちょっと、お父様とお母様は!?」


どういうことだろう、なぜこんな場所にカーナ達がいるのか。


その時、カーテンが静かに開いた。


「あの豚ども…失礼、あなたの父上や母上は今頃、お空で飛んでいるのかしらね〜」


その時、私は何か切れる音がした。

糸のような細いものではなく、もっと太く、でも脆い、何かが…


カノーラ・カフィコフが今、目の前にいた。

1年前とはうって違って、大人びて、美しかった。

私とは違って良い香りや、キラキラしたネックレスなどをつけて…



私はどうしてもどうしても、そこにいる肉の塊を割いてみたかった。

あの肉塊から出る血を眺めたかった。


「あのお二豚…ごめんなさい、あの御二方は何ヶ月か前に拷問されて斬首されたとか…まあ、わたくしの知ったことではないですけど!」


ああ…この動く肉はどういう味がするのかな…


朦朧とした意識をはっきりと取り戻した。


「そう、それは大変でしたこと…ああ、わたくし、罪を償いたいですわ。」


私はもう何も無かった。


今はただ、この世の全てを壊したかった。


私はとりあえず罪を認めた。



もうプライドも、自信も何もかも奪われた。


わたしはその日から別の人生を送った。


罪を認めたことで、私は庶民へと格下げされた。


貴族が庶民になるのはとても恥なことで、それならば死刑が良い、という人も過去にいたらしい。


しかし、私にとってはそちらの方が好都合だった。


なぜリディエール家が壊されたのか。

カーナを始めとする貴族たちは一体何を企んでいるのか。


そして、私は自分の手でこの貴族たちをめちゃくちゃにしたかった。



私は少し、わかったのかもしれない、

女子高生がこの七歳の少女になった理由が。


もし中身が7歳のままだとしたら、きっと泣き喚いて無理やり命乞いをし、貴族たちを楽しませるおもちゃになるだけだろう。


しかし、私はそうはさせない。


絶対にこの貴族を最後まで苦しめる。


そう心に誓った。



あの時、私は乞食として街の片隅に置かれた。


「ふんっ、汚らしいガキめ、せいぜい頑張るんだな」


と兵に言われた時、私は心から笑えた。


穴を出る前、持っていた食料全てを食べたためお腹は空いていないが、事実私はとても汚れていたので、まずは体を洗いに行こうとするが、それすら難しい。


カーナほど美しくは無くても、私の薄汚れた顔でさえ街の人を刺激するには十分だった。


「お嬢ちゃん、おじさんのところで美味しいお菓子でも食べない?」


「そんなに汚れちゃってさ、ほおらお風呂だよ、一緒に入ろう」


などとロリコンが大量にまとわりついた。


そんな時。


「ちょっとあんたたち、この子が困っているでしょう、さぁさぁ仕事に戻んなさい。」


力強い言葉を放った女性を見ると男たちはすぐさま逃げていった。


「あらあ、ほんとに可愛らしい子、でも汚れているわ。こっちに来なさい。」


その人はエラルナ、と名乗った。

庶民では余程のことがない限り、性を貰うことは出来なかった。


「あんたの名前は?」


私の名前。

アイリーンと言いたかったが、それは出来ない。


「レニー」


本当は全く別の名前じゃないといけないと思ったが、どうしてもお母様の呼ぶレニーを思い出してしまった。


「レニー、うん、いい名前だね。ほらレニーここが私んちだ。」


エラルナの彫りが深い顔と力強そうな体を表現したような大きな家だった。


「おーい、ジョー、エマ、レオ!!」


エラルナがドアから3人の名前を呼ぶと、細身で背の高い男子、私の同じくらいの背の女の子、丸っこい小さな男の子が出てきた。


「うげっ、汚ぇなこいつ。なんなんだよ」


背の高い男子が言った。


いくら汚くても初対面で言うなんて…


「ごめんね、お兄ちゃん口が悪くって。

こんにちは、私はエマ、あなたは?」


兄の無礼を咎めつつ、私に話しかけたのは女の子だった。


「わ、私はレニー。」


私たちが話している間でもずっと姉のす裾を引っ張り後ろにいた男の子が


「リニー!!」


と叫んですぐに笑顔になった。


「ほおら仲良くしんさい。ちょっと今日は家に入ってもらおうか。」


私はお風呂で体に付いた汚れを落とした。

鏡に映っていたのは嬉しそうな、でもちょっぴり緊張した少女が映っていた。


その夜、私はエラルナの家に泊まった。


夜はエマとその兄のジョー、弟のレオとトランプをした。

ジョーは口が悪いが、食事の時に私のご飯を少し多めに入れたり、ベッドを臨時に組み立ててくれた、優しい人だった。


エラルナの家で数日お世話になったとき、

「レニー、あんたもう元気だろう?」

とニヤニヤしながらエラルナが話しかけてきた。


「あんたはそろそろ働かなきゃあね。」


私は三人兄弟と一緒に働くことになった。


この家ではエラルナと他の作業員で服を作り、三兄弟が売ることになっているが、三兄弟だけではたくさんの服を売るのが大変だったと言う。


そこで私も一緒に服を売ればちょうど良い。


そうやってしばらく幸せにエラルナ達と暮らしていた。






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