第3話
そこは深く掘られた穴だった。
青空は見えても、登れない。
壁は煉瓦で埋め尽くされていて、足場など無かった。
しかも、見たところ高さ15メートルはある。
だから、私は諦めて、端に座った。
穴の下は丸く、多分直径5メートルあたりか。
そもそも、たかが七歳の子にこんなことができる訳ないと考えないものなのか。
それに私は毒など入れていないし、ましてやカーナを殺すはずがない。
あの試験薬だって怪しいし、何よりあのカーナが私を裏切った?
考えれば考えるほど私は嫌になった。
しかも、あのヴィランというのは私の伴侶じゃないの?
そんな人が私を拘束するなんて。
でもカーナが悪役令嬢だといのは身に染みて理解した。
今までの友情は一体なんだったのか。
私は急に悔しくなった。
あの時、誰も私を助けようとはしなかった。
カーナやヴィランはもちろん、メイドのマルナさんや近くにいた兵でさえ私を助けようとはしてくれなかった。
ただただ、自分の足を見つめていたんだ。
いくらこの人生は私のものではないと知っていても、それでも、この七歳の少女のために怒りを覚えた。
その時上からポトっと何かが落ちた。慌てて上を見ると一人の兵が心配そうにこちらを見ていた。
いや正しくは不安、恐怖が正しいのだろうか。
兵は立ち去り、私は落ちたものを見ていた。
パンだ。
藁の上にあった。
そういえば私はお腹が空いてたんだ。
その瞬間、急に頭痛、空腹、腰痛、眠気、寒気が一気に襲ってきた。
私はそれらを一つ一つ潰すようにまずはパンを食べた。
いつも食べているパンより、口の水分は取られるし、固いし、冷たいはずなのに、神からのプレゼントとも思えるような旨味だった。
パンはすぐに無くなった。
まだまだお腹は空いているが、とりあえず寝ることにした。
さっきまで気を失っていたのに、どうしてまだ眠いんだろうっと思いながら、私は眠った。
そのまま牢穴の中で1年を過ごした。
その間私はどれだけカーナを恨みヴィランを恨んだのだろうか。
この世の全てが憎かった。
悔しかった。
この1年、私は様々なことを学んだ。
最初の頃は何もしたくなくて、ただただ死にたくて、それでも怖くて、何も出来なかった。
ツルツルした肌がガサガサしていく。
ツヤツヤの髪がボサボサになっていく。
プルプルの唇から血が出て、私は初めて涙を流した。
どうして私が…こんな目に会わないといけないの…?
どうしてどうして…!!
嫌だよ、辛いよ、お母様、お助けください…!!
叫んで叫んで叫び続けた。
喉が涸れても飲むものはなかった。
しかし、しばらくすると、ある楽しみができた。
月一度、上から紐に吊るされた籠が降りてくる。
私はそれに乗って上の世界に戻れる。
一日だけ、監視をつけながらも自由に過ごせた。
私は本を借りれたので、毎回10冊ほど本を借りた。
穴の中ではパンやとうもろこし、大豆、たまに枝豆などしか落とされない。
しかし、飲む水は雨水を自分で、置いてあるバケツで溜めて飲むしかなかった。
だから外に出れる日は籠に入る分、水や保存食を詰めてきた。
そして、月に一度のお風呂も楽しみだった。
穴に戻っても、私は生き生きしていた。
あんなカーナやヴィランのために辛くなる必要は無い。
家にいた頃は思う存分贅沢暮らしていたが、今の生活には制限がある。
私は限られた本を何度も何度も読み、食べ物も計画的に食べ、体がなまらぬよう適度に運動もしたり、平民の生活について考えていた。
この経験はお嬢様の私には到底、体験出来なかった。
私はここで丁寧に生きることや忍耐力、計画性、自立性、想像力など、たくさんのものを身につけた。
そして、ある日、私は穴の中から完全に出た。
あとから聞いたが、本当ならば私の刑期は3年だったらしい。
しかし、月に一度の外出の態度がとても模範的だったことと、犯行を犯したのは7歳という幼さから、私はとても早く開放された。
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