第2話

 あれ誰だろう? ユメのクラスメイトかな?

 アタシとユメはクラスが違うし、ユメのクラスメイトを全部把握しているわけじゃない。

 だけどよく見たら、違うということが分かる。だって彼女の胸のリボンの色が、アタシのそれとは違うもの。

 うちの学校では女子は学年毎に、付けているリボンの色が違う。彼女は2年生の先輩だ。


 ユメってば、先輩と何話しているんだろう?

 美人でスタイルの良い先輩だけど……まさか!


 嫌な予感がしたアタシは、咄嗟に近くにあった階段の陰に隠れた。

 すると、ララも一緒についてくる。


「ハナ、急にどうしたんだ?」

「しっ。静かにしないと、ユメに気付かれる」

「いや、相当距離があるから、少し喋ったくらいじゃ気付かれないと思うけど」


 ララのツッコミをスルーしながら、アタシは耳をすませる。

 確かにユメ達とはかなり距離があるけど、アタシの地獄耳ヘルズイヤーは二人の会話をキャッチする。

 そしてその内容は。


「……それじゃあ先輩、明日の放課後会いに行きますね」

「了解。それにしても、彼女に内緒でこんなことするなんて、やるじゃない」

「ハナには絶対、バレるわけにはいきませんから」

「ふふっ、そうだね。いやー、愛を感じるなー。それじゃあ、明日放課後待ってるから」


 ニマニマと笑みを浮かべながら、先輩は去っていく。

 対してアタシは、完全に笑顔が消えていた。


 い、今の会話、間違いない。


「ユ、ユメが浮気してるー!」


 ショックのあまり全身から血の気が引いて、その場でガックリと膝をつく。


「お、おいハナ、どうしたんだ。浮気って、夏目くんが? そもそも君は、二人が何を話してるか聞こえたのか?」

「聞こえたよ。もうバッチリしっかり。だから分かるの。あれは間違いないなく浮気だよ」

「君の地獄耳には感心するよ。けど、夏目くんが浮気ねえ。何か勘違いしてるんじゃないかい? 本人に聞いて確かめてみた方が良いと思うけど」


 それもそうかも。

 ユメー、どういう事か、詳しく聞かせてもらおうじゃない!

 立ち上がって、ユメの元へと向かって行く。


「ユメー!」

「あれ? ハナ、どうしたの?」


 ユメは平然とした様子でアタシを見る。

 もしもさっきのが浮気だとしたら、こんなに落ち着いてはいるだろうか?

 だとしたらララの言った通り、浮気じゃない? いや、ユメのポーカーフェイスは侮れない。安心するのはまだ早いのだ。


「えーと、用ってわけじゃないんだけどさ。さっき誰かと話してなかった?」

「いや、一人だったけど」


 ユメは顔色一つ変えないまま首を横にふったけど、それは完全に嘘! だってしっかり見てたんだから!

 じゃあ何? 先輩と話してたことを、ユメは隠したってこと? いったいなぜ!?


「ふ、ふーん。そうなんだ。それはそうとユメ、明日の放課後、どこか遊びに行かない?」


 アタシは動揺を隠しながら、攻め方を変えてみる。すると。


「ごめん。明日はバイトがあるんだ。明後日じゃダメかな?」


 これも嘘! 

 だってたった今、先輩と約束してたもん。明日の放課後、会いに行くって。

 なのにバイトなんて言って誤魔化して。これはやっぱり後ろめたいから、アタシに知られたくないって事だよね。

 つまり…………浮・気・確・定!


「ユ、ユメ! 浮気だなんて。アタシじゃそんなに不満なの!?」

「は? 浮気って何?」

「惚けないで! アタシ知ってるんだから。さっき話していた先輩はいったい……むぐっ!」

「はいはーい。ハナ、ちょっと向こうで話そうねー。夏目君、彼女を借りていくよ」


 問い詰めようとした矢先。ララに口を塞がれて強制連行される。

 待ってよー。まだユメと話があるんだからー!


「ララ、放してってば。親友の破局の危機なんだよ!」

「まあ落ち着け。私にはどうも、君が早とちりしているようにしか思えない。だって相手はあの夏目君だよ。本気で君を裏切って、浮気なんてすると思うかい?」

「そ、そりゃあアタシとユメは、仲むつまじいハッピーラブラブカップルだけどさあ」

「それを自分で言う? カップルと言うより、バカップルと言った方がより正確だね。とにかく、君はそのハッピーラブラブバカップルの片割れである夏目君が、浮気してるって信じているの?」

「ア、アタシだって違うと思いたいよ。だけど隠し事してるのは確かだし、やっぱり心配だよ。ああっ、悲劇の始まりだー!」

「悲劇ねえ。私はどちらかと言えば喜劇。いや、ラブコメの予感がするけど。けど君がそこまで言うなら明日の放課後、夏目君の行動を監視してみないかい? もし本当に浮気だとして、現場を押さえた方がいいだろう」


 それは確かに。

 今問い詰めたところではぐらかされそうだし、先輩とイチャコラしているところに乗り込んでいった方が、誤魔化されないですむかも。


「分かったよ。ああ、でもそれだとユメと先輩がイチャついてる姿を見なきゃいけないってこと? キィー、あの年増女ー!」

「落ち着け。地団駄を踏むのをやめるんだ。私としてはとても愉快で面白いが、みんな変な目で見てるよ」


 ララに制止させられたけど、沸き上がる気持ちは抑えられない。

 ユメ、アタシよりも、あの先輩の方がいいの?


 うわぁぁぁぁぁぁっん! せっかくのバレンタインも近いのに、まるで悪夢だー!


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