バレンタインなのに悪夢? 彼氏の秘密は知らぬが花?

無月弟(無月蒼)

第1話

 窓から外を見れば、パラパラと雪のちらつく2月。白泉高校の昼休み。

 アタシ、ハナは親友のララと一緒に、学校の廊下を歩いていた。


「ふふふ~ん♪ ふふふふ~ん♪」

「どうしたハナ。えらくご機嫌じゃないか」

「へ? な、なに言ってるのララ。別に普通だって」

「そんな風には見えないが。まあ大方、夏目くん絡みの何かなのだろう」


 ララの口からその名が出たとたん、ドキンと心臓が波を打つ。


 夏目ユメ。それはアタシの幼馴染みの男の子。そして今は、彼氏なのカ・レ・シ!


 昔からよく一緒に遊んでいたけど、マイペースだけど優しくて格好良いユメのことを好きになって。だけどなかなか気持ちを伝えられずにいたのだけど、少し前に意を決して告白。

 念願叶って、カレカノになったのだ。


 その時はずっと応援してくれていたララも、大いに喜んでくれたっけ。

 だけどさあ。


「な、何でユメの事だって思うのさ?」

「君は分かりやすいからねえ。そうだなあ、バレンタインも近いことだし、大方『カレカノになったんだから、遠慮せずにユメにチョコをあげられるー!』なんて考えていたのかな」

「どうしてそこまで分かるの!?」


 ララの言っていることは大当たり。一字一句違いなく、そんなことを考えていたわけよ。

 明後日のバレンタインに、チョコを手作りしてユメにあげようって思っていたんだけど、ララってばもしかして、超能力者なんじゃないの?

 けど素直に認めるのも、何だか恥ずかしい。


「な、なーんて。そんなことを思ってるわけないじゃないの。バレンタイン? そういえばそんな行事あったねー。けどあんなの、お菓子メーカーの陰謀でしょ。ユメにチョコあげるなんて、これっぽっちも考えてなかったなー」

「ハナ、付き合った後までツンデレを出してどうする。そうやって素直になれなかったから、くっつくまで時間が掛かったことを忘れたのか?」


 うぐっ、痛いところをついてくる。

 そうなの。アタシはずっとユメの事が好きで、聞けばユメも同じ気持ちだったみたいなんだけどね。

 アタシが、恋愛なんかに興味ない、ユメのことなんてこれっぽっちも好きじゃありませんよーって態度を取っていたせいで、気持ちを伝えるまでかなりの時間を要したのだ。

 アタシってば何やってるんだろうね。


「君にその気がないと言うのなら、私が代わりに夏目くんにチョコをあげようかな。私から貰ってもしょうがないかもだけど、彼女から貰えないなんて彼も寂しいだろうし、慰めにはなるだろう」

「や、止めてララ。ユメはアタシの彼氏! チョコをあげるのはアタシなのー!」

「冗談だよ。どうして最初からそう素直になれないかなあ?」


 そ、そんなことを言っても。

 自分が面倒くさいって自覚はあるけど、持って生まれた性格は、そう簡単には変えられないのだ。




 でもでも、本当はちゃーんと、チョコをあげる気満々。

 実は先日もユメと、学校でこんな会話をしていた。



 ※※※※※※※※



『ね、ねえユメ。こ、今度のバレンタインだけどさ。せ、せせせ、せっかくカレカノになったことだし、どうしてもって言うならチョコあげても良いかなーって思ってるんだけど。いる?』

『もちろん。いるに決まってるのに、どうしてわざわざ聞くの?』

『だ、だってユメってば、毎年色んな子から貰ってるじゃない。だからアタシのなんて、いらないかもって思って』

『いらないわけないでしょ。一番いるよ。と言うか、今年は他の子からは貰わないから。ハナがヤキモチ妬いたら困るもの』

『はぁ? べ、別にヤキモチなんて』

『妬いてくれないの? 俺なら妬く。ハナが他の誰かからチョコを貰って幸せそうに食べるなんて、考えただけでも胸が張り裂けそうになるもの』

『ぬわーっ、悲しそうな目で迫ってくるなー! ア、アタシだって本当は、ヤキモチ妬くに決まってるでしょう! いちいち言わせるなバカー!』

『本当? 良かった、ハナのそういう所、大好きだよ』

『だーかーらー! アンタは言葉をストレートに使いすぎ! 簡単に大好きとか言うなー!』



 ※※※※※※※※



 …………キャー、思い出しただけでも顔から火が出そうになるー!

 でもユメ、大好きだって。大好きって言ってくれたよー! 

 あの後家に帰ってからも、思い出してはベッドの上でゴロンゴロンしてたんだからー!


 そういえばあの時周りにいた人達は、「と、糖度が高すぎる」、「心の糖尿病になる」って言ってたっけ。

 もうー、ユメったら人前で恥ずかしいこと言うんだからー! でも嬉しかったー!


「……ハナ。おーい、ハナー。戻ってこーい」

「はっ! ララ、何だっけ?」

「なあに、幸せそうににやけているなーって思って。仲むつまじくて羨ましいよ。……ん? あそこにいるのは、夏目くんじゃないかい?」


 え、ユメ?

 見れば廊下の遥か先に、さらさら髪の美少年、ユメの姿が。

 そしてもう一つ気になったのが、彼の隣にいる人物。ユメは見知らぬ女子生徒と、話をしていたのだ。


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