第3話

 ユメの浮気疑惑が浮上した次の日。

 アタシとララは放課後になるなり、ユメをストーキングしようと彼の教室に行ったんだけど。


「ララー! ユメもうどこか行っちゃってるよー!」

「今日のホームルーム、話長かったからねえ。ごめん、これは失敗だったかも」


 ララは頭を下げてきたけど、謝ってもらっても事態は解決しない。

 こうしている間にも、もしかしたらユメはあの先輩とよろしくやってるかもしれないのだ。


 もしも既に学校の外に出ているのなら、追いかけないと。

 って思ったけど、下駄箱まで来て確認してみたら、ユメの靴はまだ残ってたの。

 つまりユメは、まだ学校の中にいると言うことになる。


「ユメってば今日の放課後、あの先輩と何かするようなこと言ってたよね。学校の中で会っているのかなあ?」

「かもしれないね。もしかしたら保健室や体育館の倉庫の中に二人きりで……って、冗談だから。そんな悲しそうな顔をしない」


 ララが変なことを言ったせいだからね!

 とにかく、ユメを見つけないと。

 けどアタシ達の学校、そう大きいわけじゃないけど、この中から人一人を見付けるのはやっぱり難しい。

 一年生の教室をしらみ潰しに見て回って、続いて二年の教室も見て。ララの言っていた保健室や体育館、さらに図書室にも行ってみたけど、ユメの姿も昨日の先輩の姿も見つからなかった。


「もう、ユメってばどこに行ったのさー。あーあ、本当なら今頃、家でユメにあげるチョコを作ってるはずだったのにー!」

「人生とは得てして、予定通りにいかないものだよ。しかし夏目君、本当にどこに行ったんだろう?」


 もうユメの行きそうな場所は大抵行ったのになあ。

 どうしよう。このままじゃ八方塞がりだよ。


 だけど、捜索が暗礁にのり上げようとしたその時。


 ──ドオォォォォン!


 突如聞こえてきたのは、巨大な爆発音。

 ドーンと言うこ大きな音が学校中に鳴り響き、廊下を歩いていた人も皆足を止めて何事かと辺りを見ている。


 もちろんアタシだって例外じゃない。

 いったい何が起きたの?


「ララ、今の音って何?」

「何かが爆発したような音だったね。ちょっと行ってみようか」


 ユメのことも気になるけど、そっちは手詰まりだし。もしかしたらユメも音につられて、やって来るかも。


 というわけで、アタシ達は音の発信源を求めて、校舎の中を移動していく。

 そして、一つの階段を登った先。そこには異様な光景が広がっていた。


「何これ! 火事でも起きてるの!?」


 そこには、黒い煙が漂っていた。そして煙の発生源は……家庭科室?

 ここは音楽室や視聴覚室等が集まっている特別教室棟。その中の一つ、家庭科室から、この煙は洩れていた。

 まさか本当に、火事が起きているんじゃ? すると。


「換気換気!」

「もう、いったい何がどうなってるの!?」


 慌てた様子で家庭科室から飛び出してきたのは……ああーっ、昨日の先輩だー!

 先輩はエプロンを付けた姿で、ゲホゲホと煙にむせっていた。そして更に。


「すみません先輩。チョコを湯煎にかけてたら、どういうわけかドカンてなっちゃいました」

「湯煎!? オーブンや電子レンジならまだしも、どうやったら湯煎で爆発させられるの!?」


 先輩が目を見開いてツッコミを入れた相手。それは……。


「ユ、ユメー!?」

「えっ、ハナ? どうしてここに?」


 同じようにそいつは、探していた幼馴染み。ユメに他ならなかった。



 🍫🍫🍫🍫



「えーと。つまりこの人は料理部の部長さんで、ユメはチョコの作り方を教わっていて、爆発を起こしたと?」

「うん……先輩に教わった通り作ってただけなのに、不思議だね」


 首をかしげるユメ。そしてその隣には例の先輩が、某ボクシングアニメの主人公のように真っ白に燃え尽きている。


 ここは爆発事件の起きた家庭科室。

 放課後になると、料理部の人達が毎日お菓子や料理を作っているのだけど、皆疲れた顔をしている。

 無理もないか。煙を逃がすのに、さっきまでてんやわんやだったもんね。


 もう、どうしてユメに、チョコなんて作らせたかなー!

 ユメは勉強ができて、運動神経もいい。マイペースなところもあるけど、気遣い上手で人当たりもいいという完璧超人なんだけど、料理やお菓子作りは、何故か壊滅的に苦手なの。

 爆発なんて、普通ならあり得ない現象を起こすくらいに。


 アタシとララも後始末を手伝って、もう大変だったんだから。


「な、夏目君ごめん。君は私の手には負えないわ」

「先輩……俺の方こそすみません。チョコの作り方、教えてほしいなんて頼んだりして」


 先輩に頭を下げるユメ。

 先輩と会うのって、チョコを作るためだったんだ。浮気じゃなかったってわかって、ホッとしたよ。

 そして先輩、心の中とはいえ年増なんて暴言を吐いちゃってごめんなさい。


「良かったねえハナ。やっぱり浮気じゃなかったよ」

「ちょ、ちょっとララ!?」


 ニマニマ笑いながら言ってくるララに慌てるけど、そんなこと本人の前で言わないでよー。

 そしたら案の定、ユメは怪訝な顔をする。


「ねえ、浮気ってどういうこと?」

「実はね夏目君。ハナは君がこそこそ何かやっているのに気づいて、浮気じゃないかって疑ってたんだ」

「何それ? 黙ってたのは悪かったけどさ。俺ってそんなに信用無い?」


 まるで怒られた子犬みたいな悲しい目で見つめられると、心臓がキューンってなる。

 ご、ごめんユメ。疑ったアタシがバカだった。


「だ、だってユメモテるから。可愛い子や美人な先輩に言い寄られて、そっちに行っちゃったらどうしようって心配で」

「行かないよ。最高に可愛い彼女がいるのに、行くわけないだろ」

「さ、最高に可愛いって、アタシのこと?」

「他に誰がいるの?」


 ユメ、やっぱりストレートに言葉を使いすぎる。

 その一言が、どれだけアタシの心臓をガタガタにしてるか知らないのか!


 室内にいた料理部員達も、「何この空気!?」、「あの二人、いつもこんななの?」ってざわついている。

 そして、真っ白な状態から息を吹き返した部長の先輩がやってくる。


「彼氏のこと疑ったらダメだよー。夏目君ね、バレンタインに貰ってばっかりじゃ嫌だから逆チョコ渡したいって言って、料理部を頼ってきたんだから」

「え、じゃあチョコを作ろうとしてたのって、アタシのためだったの!?」

「今気づいたの? 鈍いよー。まあ、残念ながら力にはなれなかったけどね」


 先輩は力なく天を仰ぐ。

 彼氏が爆発なんてさせちゃってすみません。ええーい、でもそれなら。


「チョコを作りたいなら、アタシが作り方を教えてあげるから」

「ハナが?」

「そうよ。と言うか、どうして最初からアタシを頼らないかなあ!」


 て言ったけど。ララは「そりゃあ普通、あげる相手から教わったりしないだろう」なんて漏らしている。

 ま、まあ細かいことは気にしない。さあユメ、アタシが手とり足とり教えてあげるからね!








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