第十四話
「あ”あ”…?」
どこだここ?
なにがあった?
なんでおれはたおれてる?
あたまがいたい。ひだりがわが、さむい。
ねむい。このままねてしまいたい。
「……………!!…あっぶねえ!」
跳ねる様に体を起こし、急いでその場から離れる。
左側に視線を向けると左腕は完全に失われており、脇腹までえぐり取られていた。
左半身が持ってかれたのか、良くそれだけで耐えたな。
リヴァイアサンは何処に……うわ、俺の事なんて見向きもしてないよ…。
まぁ、瀕死だったし…何なら、今も『戦闘継続』お陰で何とか動けてるが、再生阻害されてた所為で、あのまま海の藻屑になっても可笑しくなかったしな…。
其れよりも、今問題なのは体に打ち込まれた魔力だ。
こいつの所為で俺はもうちょっとで奥の手を出す前に無様に逝くところだったんだぞ。
あの野郎…女郎かもしれないけど…撃ち込まれた場所が的確に魔力が通る要所を完璧に抑えてるから、本当に魔力が通らない…。
…『身体能力強化』も無しに右半身が残ったのは、奇跡だな…。
さて、現状をいったん整理するとしよう。
現在、俺の状態は最悪だ。
再生は撃ち込まれた魔力によって阻害され、それを解くために魔力を解放すれば、リヴァイアサンに気付かれてハチの巣される。
時間をかけてゆっくり魔力を抜くには完治する前に王の間の周りに張った『プレート』が先に壊れて、海の底に沈められるだろう。
………この状況を打破するには”奥の手”を使って何とかするしかない…と。
嫌だなぁ…土御門さん絶対にビックリするよな…。
後々に来る反動と現状打破を天秤にかけた時、俺の天秤は躊躇なく現状打破の方に大きく傾いた。
「……良し、やるか」
発動条件は簡単だ。
ただ、頭の中のスイッチを切り替えて、小さく其れを唱えるだけで終わる。
『
今の今まで後手後手に回って来たんだ。
ここで一発ドでかいのでぶった斬ってやる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
湊が其れを唱えた瞬間、大気が大きく震えた。
膨大な魔力によって空間が大きく軋み、周囲の空間が大きく歪む。
リヴァイアサンはソレの存在にすぐ気が付いた。
先程まで風前の灯火に過ぎなかった木っ端な命、ソレが
「―――――――――””!」
リヴァイアサンは大きな咆哮を上げ、今まで一番大きな魔法陣を空中に展開する。
魔法陣から現れたのは数多の命、大いなる海から生まれた様々な生物が、リヴァイアサンの魔力を伴って、湊へと襲い掛かる。
湊は爆発的な魔力の本流の中で、ゆっくりと目を開いた。
「無垢なる斬撃よ、万象を断て」
湊は詠唱を開始し、周囲の魔力が布都御霊剣へと集束する。
湊が詠唱を詠み終える前にリヴァイアサンの魔法が、襲い掛かった。
「この一閃、神をも断ち、世界を斬り闢こう」
しかし、魔法は湊へと届く前にかき消され、布都御霊剣に吸収されていく。
リヴァイアサンは咆えた。
数え切れぬほどの魔法陣が生まれ、強く煌めいた。
『
刹那、世界が二つに分かれた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「――――――――はぁ!…はぁ……はぁ…はー……めっちゃしんどい…」
俺はその場に座り込んで大きく息を吸いこんだ。
マジックバックに仕舞っている水筒を取り出そうと手を伸ばすが、手が震えて上手く取れない。
何とか握って、口元に持っていこうとするが上手く握ることが出来ず、服に零してしまった。
………冷静に考えると、今の俺の格好、かなりやばい事になってるな…。
何とか着替えなきゃ……いっ…痛ってえ…。
俺は突如体に走った痛みに見悶えしてしまう。
たった6秒の発動で凄まじい反動だな…。
恐らく、『高速再生』と『全耐性』のスキルがほとんど機能していない。
あ”~動きたくないなぁ…。
まあ、そんな事も言ってられないから、痛みを無視して頑張って体を起こす。
良し……遺品の回収と行くか。
俺の前に異界に調査に来た人の遺族の方々の為に、頑張んなくちゃな…。
俺は王の間の門を開けて、一歩外へ踏み出した。
「………は?」
門の向こうにはボロボロになった『プレート』が薄く辺りを包んでいて、先程まで進行を止めていた大量の海水は何処かへと消えていた。
否…そんな事よりも…。
「異界が崩壊している…?」
地面が崩れ始め、景色からは色が失われている。
蒼いはずの空は黒く染まり、剥がれ落ちた空の隙間から何も見えない虚無が広がっていた。
俺は少しだけフリーズした後、全速力で駆けだした。
『身体能力強化+脚力一点特化』
『高速再生』は効きは悪い物の一応機能はしている…している筈なんだが、全く体中の痛みが取れない。
恐らく気付いていないだけで、骨が何本かやられているのかもしれない…。
俺は強く奥歯を噛んで、遺品の回収へと向かうのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
崩壊は加速し、段々と足場が失われて行く。
空が落ち、燦燦と輝いていた太陽は既に消えている。
俺は七つ目の遺品をマジックバックに仕舞った時、残りの遺品の回収を諦めることを決めた。
王の間へと繋がる道は虫食い状態になっていて、一歩踏み外せば虚無へと真っ逆さまだ。
俺が王の間に現れた”扉”の下に着くと、”扉”は既にボロボロになっていて、原型を留めていなかった。
俺は急いで”扉”を開き、その身を投げた。
その瞬間、俺の眼に茜色に染まった海が目に入った。
………そう言えば此処って海上異界だったな…。
俺は海面から顔を出し、大きく息を吸いこんだ。
仕方ない…体の痛みが引かないが、取り敢えず陸に向かってゆっくり泳いでいくとしよう。
俺はこの時、『超越突破』の反動によって、幾つかのスキルが使用不可能、若しくは大きな弱体化をくらい、更にはステータスも減少していた。
俺はてっきり『全耐性』と『高速再生』が弱体化していると思っていた。
しかし、この時、使えなくなっていたスキルはもう一つあるそれは…『魔力探知』である。
「……っ!」
背後を取られていると、気が付いた時にはもう遅くて。
首に何かを突き刺されていた。
体に何かを流し込まれ、目の前に景色が大きく歪む。
本来、毒が体に入れられたとしても、『全耐性』が発動している限り、俺に毒は効かないし、強力な毒であろうとも普段のステータスならば耐えられる。
しかしこの時の俺に『全耐性』は使えない。
俺は抵抗出来ず、そのまま意識を失ってしまった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・用語紹介
・『超越突破・二重』
天城湊の奥の手。
すべてのステータスが二倍、スキルのレベルが2倍になるスキルで、発動条件はただ超越突破と唱えてステータスの倍率を次に唱えるだけで発動できる。
最大で10倍まで引き上げたことがあり、それ以上の倍率は試したことがない。
このスキルを発動すると大きな反動が発動者を襲う。
一番倍率が低い2倍でもスキルのレベルとステータスの値が半分になったり、体中が内側からズタズタになる。
時間を絞ることで反動を軽くすることが出来るが、それでも反動はキツイ。
『全耐性』で反動を軽く出来はするが、『全耐性』が使えなくなったら、軽減されることなく反動が発動者を襲う。
・『極致・開闢』
天城湊が作り出したオリジナル魔法にして、湊の最後の切り札。
たった一撃に通常時の湊の全魔力、およそ100万を斬撃に注ぎ込み、更に神剣の性質を付与しする事で周囲の魔力を飲み込みながら威力を上げると言う理不尽な一撃を繰り出す。
防御不可能、回避不可能という強すぎるこの技だが、一撃にかかるコストが高すぎる。
斬撃だけで殆どの魔力を消費するというのに、斬撃を放つ際に体中を限界まで強化する必要があるため、これで全魔力の30%、神剣の開放に8%、限界まで強化した肉体の崩壊を抑えるための高速再生に15%、合計で約150%の魔力を使用する。
因みに、これを異界内で放つと、異界に亀裂が生まれるが今回の異界の崩壊に直接的な影響は与えていない。
・世界観紹介
・S級の扱い
実はS級と言ってもピンキリで、一番下を見ると一番強いA級でも勝てる様なやつもいる。
例えば【鷹ノ目】、彼は情報収集能力と遠距離射撃が得意だが、【獄門犬】と一対一で勝負するとなったら、勝率3割を切るだろう。
日本のS級冒険者は様々な業績を加味した推薦制なので、本人が断ってしまったらS級にはならないので正直日本のランク制度は実力の物差しとして考えるとあまり参考にならない。
因みに、外国のS級は本当に実力だけで選んでいるので日本よりも人数が少ない。
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