第十三話
日本海海上異界には幾つか普通の異界とは違う点がある。
まず最初に、”扉”と異界のランクが合っていないことである。
この異界の”扉”は目立った特徴の無い普通の木造の扉なのだが、その向こうには何処までも広がる青い海が存在している。
しかもこの海は魔力を多く含んでいるのだ。
これ程まで普通とは違うタイプの異界ならば”扉”に何か刻印もしくは装飾がなされていても可笑しくない。
そしてこの異界には、C級を遥かに超えた化物が居座っている。
深い深い海の底、恐らく王の間と思われる場所から凄まじい魔力を放っている。
さて、ここで一つ仮説を立てる事が出来る。
魔力の含まれた海、C級とは思えない馬鹿でかい魔力の塊、装飾の無い異界の扉。
つまり、ここの異界の海はそこに居る化物によって作り出されており、王の間に居るナニカは本来の異界の王ではないと言う事だ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『身体強化・腕力一点特化』
『無属性魔法・スラッシュ・完全開放』
「斬!!!」
”扉”からは想像できないくらい莫大な魔力が俺の肌を刺してくる。
こんなのB級ギルドに攻略できなくて当たり前だ!
取り敢えず、ある程度セーブした状態で全力の一閃を海に向けて放つ。
海が割れ、王の間まで一直線に道が生まれる。
本来ならば全体の調査をゆっくりしていきたいのだが、そんな事で消耗してしまっては水底に居る化物を相手どれるか不安な為、思い切りショートカットをする事にした。
王の間に向けて急降下している最中に魔力封じの指輪を全部外して、門の前に立つ。
「『囲め!プレートっ!!』」
海が王の間に入ってきて形勢不利にならないように周囲にプレートで壁を作り出す。
外では王の眷属らしき魔物達が作り出された壁に体当たりしているが、その程度の攻撃ではびくともしない…たぶん。
眷属の中にB級クラスの魔物が居たのは見なかった事に、俺は急いで王の間に足を踏み入れた。
足を踏み入れた瞬間、目の前に眩く輝く極光が迫ってきていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ヤッッッバイ!!」
『プレート』は無理、『スラッシュ』もかき消される『完全開放』は間に合わない。
「『フラッシュカウンター!!』」
布都御霊剣をギリギリで抜刀し、体とレーザーの間に滑り込ませる。
苦し紛れに放った『フラッシュカウンター』はレーザーとぶつかり、何とか左の方向に逸らす。
初撃は左腕一本と言う少ない被害で済ませる事となった。
第二射が来る前に全力で動き、照準を合わせないようにする。
「…水龍?否、リヴァイアサンか!」
王の間に居たのは神話から様々な伝承で語られている、とんでもない魔物。
リヴァイアサンはS級の魔物でも上澄みも上澄み、何千年前に一つの大陸を海に沈めたと言う伝承が残っているほどで…。
「…っと、危なっ!」
色々と考えを巡らせていると、跳ねた水滴が銃弾のようになって、俺へと襲い掛かって来る。
回避した方向に的確に、リヴァイアサンはレーザーを放って来た。
『身体能力強化・硬』
今度は直撃をくらったが、事前に防御態勢を取れたお陰でダメージは殆どない。
…しかし、余り時間をかけていると行動を読まれて、どでかい一撃を貰いかねない。
だが、急いで距離を詰めようにもとんでもない弾幕の量に近付くことが出来ない。
取り敢えず、遠距離攻撃で牽制しつつ、次の行動に合わせてカウンターを決めるしかない。
「スラッシュ!」
適当な斬撃を103程放ち、王の間を縦横無尽に駆け巡る。
リヴァイアサンは上空を泳ぐように動き、斬撃を避けていく、その中で何発か当たっているようだったが、リヴァイアサンの体にぶつかった瞬間にかき消されてしまっている。
何が理由かは分からんが遠くから見た限りではリヴァイアサンの鱗が原因だろう。
奴が体中に纏っている水によって鱗に魔力が通されて、防御力が上がっているのだろうが…原理は良く分からん。
そんな事を考えていると、突然リヴァイアサンが大きな咆哮を上げた。
上空に王の間を覆う程のサイズの魔法陣が発生し、大気の魔力が震え始める。
魔法陣が一際強く輝くと、何万もの水の槍が王の間に一気に降り注いだ。
「『無属性魔法・シールド・一点特化・其ノ六重!』」
自分だけを守るように頭上に六角形の半透明な板を6枚展開し、何とか持ちこたえようとしたのだが…。
「破られるか…」
俺は一気に魔力を練り上げ、魔法を構築する。
「無垢なる斬撃、分割し、絶え間なく降り注げ」
詠唱して速度、威力を増幅させて、カウンターを狙う。
「『無属性魔法・スラッシュ・砲煙弾雨』!」
『完全開放』の真逆、一撃に全てを賭けるのではなく、手数で攻めるタイプの魔法。
それ故に発動までの工程が複雑になっており、使う場合には少しの詠唱を必要とする面倒な魔法だ。
……自分で作っておいて何だが、今まで使う場が殆どなくて自信があっただけにちょっと寂しかったが活用の場が見つかってちょっと嬉しい…。
放った幾千もの斬撃は水の槍を打ち消していく。
斬撃と槍がぶつかった事で複数の場所で衝撃波が発生し、大気の魔力がうねりを上げる。
幾つかの斬撃は水の槍をかき消してリヴァイアサンへと襲い掛かるが、直撃した瞬間に何処かへと霧散してしまう。
やっぱり、鱗か何かに仕込みがありそうだ。
真正面から打ち消すには、『完全開放』レベルの攻撃が……「ごぼ……」…え?
「…お”ぇ”…」
突然、体の内部から水の剣が飛び出して来る。
何で?何時やられた?拙い…このままじゃ…。
内側から破壊される痛みを無視して顔を上げると、複数の巨大な魔法陣が俺を取り囲んでいた。
「…!……」
何とかして体を再生させようとするが、何かによって魔力の流れが阻害されて上手く魔力を練れない。
このままじゃ…。
何とか逃げる手立てを探すが、血液も水の剣によって押し留められているせいで、頭も回らない。
大気が震え…魔法陣が輝きを増す。
俺はその場から逃げることが出来ずに、眩い光に包まれた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・用語紹介
・日本海海上異界
C級異界のはずが、リヴァイアサンとか言うとんでもない魔物が居るヤバい異界。
元々はただの平原だったが、リヴァイアサンによってその全てが海に沈められた。
出てきたC~B級の魔物たちは全部リヴァイアサンの眷属である。
・リヴァイアサン
S級魔物の中でも上澄みも上澄みの最強クラスの魔物。
水に関する事なら何でも出来る上、魔力量に関しても天城湊と同レベルかそれ以上である為、普通の冒険者では真正面から言っても勝ち目はゼロである。
更に、この魔物の恐ろしい所は魔力を通せばどのような液体だろうと操作することが出来ると言う所である。
それが体内を循環する血液だろうとも、ほんの少しの魔力さえ入れてしまえば、操作することが出来てしまう。
そして、体内に打ち込まれた魔力は魔力の流れを阻害し、対象をじわじわと溺死させていく。
因みに、何千年前に一つの大陸が滅ぼされたと言う伝承は壁画となって残っていたが、およそ100年前に発生した地震によって今は壊れてしまっているらしい。
そんなリヴァイアサンだが、70年前に大西洋で発生した異界顕現にも出現した。
結局、その異界顕現は完全破壊できなかったそうだ。
・『身体能力強化・硬』
身体能力強化を防御力を上げることだけに集中させた魔法。
普通の身体能力強化よりも3倍ほど固くなれる。
・『無属性魔法・シールド・一点特化・其ノ六重』
プレートよりも難易度が高く、防御力が高い魔法。
それを頭上を守るために一点特化させて、六枚生成している。
シールドは中級者向けだがいい魔法なので使えるようにしておくと吉。
・『無属性魔法・スラッシュ・砲煙弾雨』
『完全開放』の逆で手数に重点を置いた湊のオリジナル魔法。
しかし、最大で何千にも分割された斬撃を操作するのは流石に難しいので、少しの溜か、詠唱する必要がある。
因みに、コスパはかなり悪い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます